本研究では、複素簡約代数群の作用する複素代数的球多様体に対し、その実形による自然な作用を考え、以下の2つを問題として掲げた。 1.複素代数的球多様体に対する実形による作用は可視的であるか。 2.実形による複素球多様体への可視的作用を、非可換調和解析に応用せよ。特に、球関数を構成し、その性質を調べよ。 まず1年目の研究によって、複素球多様体へのコンパクト実形による可視的作用をシンプレクティック幾何の観点から研究し、「コンパクトリー群のハミルトニアンな作用に対しては、コイソトロピック性と強可視性とが同値である」という結果を得た。これは、笹木集夢氏による先行研究における線型な作用の場合の結果(2009~2011年)の拡張になっている。 次の2年目の研究では、コンパクト実形による複素球多様体への可視的作用のスライスの構成法を援用することにより、「実簡約リー群の簡約型球部分群に対するカルタン分解」を、小林俊行氏の予想(1995年)を解く形で得た。これは、M. Flensted-Jensen氏(1978年)とW. Rossmann氏(1979年)による実簡約型対称対の場合に対する結果の拡張になっている。 最後の3年目の研究では、やはり可視的作用のスライスの構成法を援用することで「簡約型Gelfand対に対するカルタン分解」を得た。さらに、この非可換調和解析への応用として、リーマン対称対に対して知られていた「球関数の対称性」及び「Helgason Fourier変換」を簡約型Gelfand対へと拡張した。
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