前年度に引き続き、K3曲面の自己同型と周期の研究を行った。K3曲面は主に複素数体上定義されたものが考察対象である。以下、6年間の研究期間を通じて得られた成果について述べる。一部は(共著)論文として既に発表した。残りの成果も順次まとめて公開する予定である。 (1) K3曲面の自己同型の研究を行った。手法としては主に格子理論を応用した。まず、K3曲面への有限群の作用について、シンプレクティックの範囲で極大の場合に、そのような作用を指数有限で拡大することを考えた。全ての場合について、格子理論の枠組みで十分な情報を決定して表としてまとめた。なお、最大位数3840の場合など、いくつかの場合については定義方程式を具体的に与えることができた。また、無限群の場合についても研究した。ピカール数2の場合については、実2次体について知られている事実を応用することで存在条件についての結果を得た。 (2) K3曲面(の周期)と関連した保型形式(のなす環)についての研究を行った。K3曲面の退化の情報は指標つき保型形式として(あるいは保型形式環の定めるモジュラー多様体の orbifold としての構造として)反映される。いくつかのK3曲面に対応した保型形式環について、多項式環に近い構造をもつことなどを確認した。 (3) カラビ・ヤウ3次元多様体の退化に関連したK3曲面の自己同型について研究を行った。 (4) 完全交叉として実現されるK3曲面のミラー対称性について研究を行った。K3曲面の場合は格子偏極の観点からのミラー対称性の定式化を考えることが多い。この観点から、いい性質をもっていると期待される重み付き射影空間の完全交叉として得られる特殊なK3曲面について詳しく研究した。ピカール格子について具体的な計算を行うことで、上記のミラー対称性が実際に成立していることを観察した。
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