当該年度は,代数ビジョンとアーベル曲面のシジジーについて以下のような研究を行った.
(1)代数幾何の手法を用いたコンピュータビジョンの研究(代数ビジョンと呼ばれることもある)に関連することを調べた.コンピュータビジョンにおいて,「カメラ」とは3次元実射影空間から2次元実射影空間への線形射影(もしくはそれを適当に行列表示したもの)であるとみなされる.コンピュータビジョンの研究者であるHartley氏,Schaffalitzky氏により,いくつかの画像からもともとの3次元の形状を復元する,といった有る種の再構成定理(およびその高次元版)が行列の具体的な計算を用いて証明されていた.三浦真人氏(韓国高等科学院),植田一石氏(東京大学)との共同研究で,その再構成定理の代数幾何的な別証明を与えた.
(2)アーベル曲面上のシジジーについても研究を行った.代数多様体の射影空間への埋め込みが与えられた時,その定義多項式の間の関係式やその関係式の間の関係式等はシジジーと呼ばれる.「n番目までのシジジーが単純になる」とき,その埋め込みは条件(N_n)を満たすという.一般にこの条件が満たされるかどうかを確認するのは容易でないことが多いが,アーベル多様体の場合は比較的よくわかっている.アーベル曲面の場合に適当な数値的条件のもと条件(N_n)が満たされるという結果が知られていたが,当該年度はその数値的条件を少し弱めることが出来た.結果的に証明も簡潔になったと思われる.
|