当該年度は,主に以下の2つの研究を行った.
(1) セシャドリ定数とは代数多様体上の直線束の正値性を測る不変量(非負実数)である.Florin Ambro氏(Institute of Mathematics of the Romanian Academy)との共同研究では,まずトーリック多様体の場合にセシャドリ定数が多面体のn番目の逐次最小という不変量の類似であることを観察した.ここでnは考えている代数多様体(もしくは多面体)の次元であり,逐次最小は多面体の「大きさ」を測る不変量である.その観察をもとにトーリックとは限らない代数多様体上の直線束に対し,i番目のセシャドリ定数(ただしiは1からnまでの整数)を定義し,トーリック多様体の場合にはそれが多面体のi番目の逐次最小の類似であることを示した.またi番目のセシャドリ定数の性質をしらべ,特に逐次最小に関するミンコフスキーの第二定理の類似をi番目のセシャドリ定数について証明した.
(2) ファノ多様体XのK安定性は,テスト配置のドナルドソン-二木不変量の正負を見ることで定義される.またXの自己同型群が簡約でないときはXがK-poly安定ではないことが知られている.Codogni氏とDervan氏は,自己同型群が簡約でない場合,その冪単根基を用いて定義されるLoewyテスト配置(もしくはその類似物)のドナルドソン-二木不変量が負になると予想した.具体的なある3次元トーリックファノ多様体のLoewyテスト配置とドナルドソン-二木不変量を計算することにより,その予想の反例を与えた.
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