研究課題/領域番号 |
17K14163
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
疋田 辰之 京都大学, 数理解析研究所, 助教 (70793230)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 幾何学的表現論 / 標準基底 / 錐的シンプレクティック特異点解消 |
研究実績の概要 |
Hecke環や量子群などの標準基底の理論は昔から偏屈層の理論を用いて幾何的に解釈されてきた。一方でLusztigはアフィンHecke環のある表現の標準基底をSpringer特異点解消などの同変連接層のK群を用いて記述し、それが正標数のLie代数の表現論を統制していることを予想した。標数が十分大きい場合この予想はBezrukavnikov-Mirkovicによって証明されたが、その証明の一部分は一般の錐的シンプレクティック特異点解消の場合に意味を持つことからLusztig予想の一般化が存在することが期待されていた。
本研究ではその目的のために良いトーラス作用を持つ錐的シンプレクティック特異点解消の同変K群に対する標準基底の理論を構成することを目標としている。まず標準基底を定義するためには適切な対合を定義しなければならないが、それがMaulik-Okounkovによって定義された安定基底の理論を用いると簡明に記述できる可能性があることを観察していた。そこでは正規化を適切に選ぶことが重要な問題として残っていたが、様々な例で実験することによって一般の場合の正規化の公式を予想した。一般の場合にそれが対合になることはまだ予想の段階であるが、それが正しければ標準基底を計算するアルゴリズムが存在するということもわかった。
また偏屈層の圏はしばしば最高ウェイト圏の構造を持つことが知られている。一般に連接層の圏は最高ウェイト圏とは程遠いものであるが、少なくともハイパートーリック多様体の場合、標準基底から得られる傾斜ベクトル束の自己準同型環のKoszul双対の同変加群の圏を考えるとそれが最高ウェイト圏の構造を持ち、上の対合はKoszul双対側では自然な双対と一致することがわかった。このことはこの圏が何らかの空間上の偏屈層の圏として実現できる可能性があることを示唆しているように思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず当初の懸念であった対合の正しい正規化を見つけるという問題が少なくとも予想としては理解することができた。また点のHilbertスキームなどの場合に標準基底を計算するプログラムを書くこともできた。これにより非自明な例で実験をすることが容易になり今後の研究にも役に立つと考えられる。
安定基底はスロープと呼ばれるパラメータに依存しているため標準基底の理論もスロープに依存している。したがって標準基底が傾斜ベクトル束に持ち上がるとすればスロープに依存して連接層の導来圏に様々なt構造が入ることが期待される。そしてこれはAnno-Bezrukavnikov-Mirkovicによって定義されたBridgeland安定性条件の類似を定めるデータの一部になると予想できる。そしてこの予想をハイパートーリック多様体の場合に確認することができた。またそのデータには中心電荷と呼ばれるものを定める必要があるが、それが既約対象に対してはそれをパラメトライズするポリトープの体積で与えられるということを観察した。
またハイパートーリック多様体の場合に対合を導来圏に持ち上げることに成功した。この対合の意味付けは良いトーラス作用を持たない場合でも意味を持つため、今後対合をその場合にも一般化しようとする場合に役に立つ可能性がある。そして最高ウェイト圏の構造が入ることは標準基底の理論を考える主な動機の一つであった連接層と偏屈層の対応を見つけるという問題に対して重要なヒントになっていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に現在までの進捗状況で述べた結果を論文にまとめる。その上で今後の研究課題としてはまずハイパートーリック多様体の場合に連接層から得られた最高ウェイト圏を偏屈層の圏として実現するという問題が考えられる。この問題に関してはシンプレクティック双対のハイパートーリック多様体のある種の半無限版を用いることで実現できるのではないかと考えている。次にハイパートーリック多様体以外の例について、例えばHilbertスキームやグラスマン多様体の余接空間の場合などに標準基底やその導来圏について具体的に記述できるかどうかを調べる。特にハイパートーリック多様体に対してできるような組合せ論的な標準基底のパラメータ付けとそれを用いた中心電荷の記述の一般化ができるかどうかという問題や、量子群のある部分代数の標準基底に対する応用ができるかどうかを調べる。そして良いトーラス作用を持たない例について、その傾斜ベクトル束の自己準同型環のKoszul双対の表現論を調べることで標準基底の理論が一般化できるかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は一定期間海外出張して研究を行う予定であったが、それが次年度以降に繰り越されたため。
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