研究課題/領域番号 |
17K14163
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
疋田 辰之 京都大学, 数理解析研究所, 助教 (70793230)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 標準基底 / シンプレクティック双対性 / 楕円コホモロジー |
研究実績の概要 |
当該年度はこれまでの研究を整理してまとめた論文を執筆し、プレプリントとしてarXiv:2003.03573に公開した。この論文では錐的シンプレクティック特異点解消とその双対の組という概念を定式化し、そのような組に対してK理論的なバー対合と呼ばれる同変K理論上の自己同型を定義した。そしてそれが実際に対合であるという予想を仮定した上で、K理論的な標準基底を形式的に構成するアルゴリズムを与えた。またK理論的な標準基底に関する基本的な予想として、それの持ち上げとなる傾斜束の存在や、それが与える連接層の導来圏へのt-構造の族がある種の安定性条件に持ち上がること、またそのKozsul双対に最高ウェイト圏の構造が明示的に入ることなどを定式化した。またK理論的なバー対合には一見人工的な正規化を用いる必要があるが、それを楕円化したものを自然に定義することでK理論的なバー対合に現れる正規化に対する説明を与えた。また楕円バー対合が対合であるという予想を定式化し、それがフロップに関する楕円安定基底の二つの予想から従うことを示した。最後にこれらの予想全てをハイパートーリック多様体と呼ばれる錐的シンプレクティック特異点解消のクラスで証明した。その過程でこれらの具体例に対してはK理論的な標準基底の楕円化と呼ぶべきものが存在することを示し、それが適切な極限のもとでK理論的な標準基底の族を全て与えることを示した。これはK理論的標準基底の壁越え現象をまとめ上げるものであり、一般の場合に標準基底の理論を楕円化する上で興味深いものであると考えている。
また箙多様体で良いトーラス作用を持つ場合には、上述のフロップに関する楕円安定基底の予想の一つが、Okounkovによって定義されたvertex functionに関するシンプレクティック双対性の予想と少しの技術的な仮定から従うことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究に関して一度整理して、細かい改善点や一般的に議論できるところは一般的に行うなどによって、仮定するべき予想や前提を減らし、理解が進んだ。また楕円標準基底と頂点作用素代数の双対性などとの関係を示唆する観察もあり、今後当初想像していなかった分野との関係がつくことも期待される。そして一番の懸念であったバー対合が対合であることの証明に関して、vertex functionのモノドロミーを用いるという新しいアイデアが得られ、実際その証明が機能することをシンプレクティック双対性に関して既に期待されている予想と具体例では簡単に確かめられる仮定のもとで確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としてはまず第一に箙多様体の場合などの例でK理論的、及び楕円標準基底がどうなるかを調べるというものがある。グラスマン多様体の余接空間の場合には以前K理論的な標準基底と大域結晶基底と呼ばれるアフィン量子群の表現の基底が一致することを計算しており、その計算をより一般の例で行うことができるか調べる。またその楕円標準基底が何になるべきかを研究し、それが頂点作用素代数の理論と関係するものがあるかどうかを調べる。
他には安定性条件の中心電荷に関係して、ハイパートーリック多様体の場合に以前示した標準基底に対応するGKZ超幾何関数の積分表示の記述を他の例に一般化できるかどうかという問題や、例えばヒルベルトスキームの場合に標準基底として出てくる対称多項式について組み合わせ論的に研究するという問題などもある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により出張の予定がキャンセルされており、その影響で長期で海外出張し研究する計画であったが次年度も予定は不透明である。
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