研究課題/領域番号 |
17K14180
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
丹下 基生 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70452422)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スライスリボン予想 / レンズ空間手術予想 |
研究実績の概要 |
今年度は、スライス結び目のもつPR図式についての研究を行った。PR図式とは、スライス結び目がもつハンドル図式上のはめ込み図式のことであり、スライスリボン予想の解決のためのカギを握る対象であることが予想されており、この図式を自明化することができれば、スライスリボン予想(ここでの主予想)は解決する。前年度までに、すべてのスライス結び目の円盤には、modifiedされた自明化が存在することを示したが、それには重要な困難が発生していた。今年度は、このPR図式の中のPR-moveを細かく制限することで、多くの困難が避けられることが分かった。それは、ハンドル図式の中の結び目が、ハンドル図式とは絡まない位置に置くことができるという予想である。この予想が主予想のための手がかりであると期待される。しかしそのときにも多くの複雑な問題が発生している。これらを回避することができるかどうかが今後の課題でもある。
3次元球面でのデーン手術が与えるレンズ空間を分類する内容の研究をした。斎藤敏夫氏は、へーガード分解を用いることで、レンズ空間手術を持つ結び目はw-propertyを持つことを示したが、今回、この性質は、OzsvathとSzaboによって得られていたアレクサンダー多項式の係数の条件として落とし込むことができるようになった。そのことで、斎藤の定理を一般化することができた。この結果は以前からえられてはいたが、非ゼロ曲線を用いて簡潔に言い表されることで簡明な証明となっている。寺垣内は、レンズ空間手術をもつ結び目のアレクサンダー多項式の3番目の係数が非ゼロである場合、そのような多項式が特徴づけられることを予想した。この予想を非ゼロ曲線を用いることで肯定的に解決させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、スライスリボン予想に関する研究をとるまとまった時間がそれほど取れず、さほど進展はしていない。しかし、6月の北海道大学で開催された研究集会で発表したのち、新しい考え方を見つけることができた。それが、PR図式において、分岐曲面と結び目の分離性である。このことに着目すれば、不可能であった3ハンドルスライドができるようになる。 また、ファイバー結び目に関する研究を始めたが、状況証拠のみで、bordered Floer homologyとannulus twistの関連性を明確にすることができずにいる。これは2020年度進展させたい。 デーン手術の構造を持つレンズ空間の分類は、少しずつ周辺の状況が整理されてきている。2020年度は多くの進展を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、PR図式がもつ可能性についてさらに研究する。2020年度の研究では、以下を証明する予定である。スライス円盤の初期設定から変形を繰り返すことで、結び目と、あるPR図式のもつブランチ曲面と分離するされることを示す。ハンドルスライドや各イソトピーのステップにおいて証明すれば十分である。 レンズ空間がいつデーン手術的分類問題への取り組みを終結させる。この問題は、2010年に書いた論文に関する内容であるが、最近、拙論文On the Alexander polynomials of lens space knotsを出版されたことを受けて、その証明のための下地を作ることができた。この論文で導入された非ゼロ曲線の性質を使うことで、これまでの複雑な議論がとても簡潔に書くことができるだろう。この証明とGreeneの証明からわかることを探り、さらに今後の研究の方向を見つける。 今年度、ファイバー結び目のknot Floer homologyについての実験を行った。ある結び目をannulus twistをしてできる結び目は、再びファイバー結び目になり、アレクサンダー多項式が同じになるが、knot Floer homologyがある規則的な動きをする。この現象の解明として、結び目のmonodromyとbordered Floer homologyを用いて考察する。 斎藤敏夫氏のw-propertyの概念を一般化することで、Alexander polynomialとwaveの関係性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に予定していた研究集会「微分トポロジー19」がコロナウイルス蔓延防止のため、延期され次年度に繰り越したため、依頼出張などの経費を使うことができなかった。次年度に延期された集会を行うため、その旅費や、様々な出張代として繰り越すことになる予定である。 また、2020年度は、多くの出張ができないかもしれないことを見越し、オンラインで講義やセミナーなどができるようにするために、当初予定していなかった通信機器や、カメラなどの機材を確保することに充てる計画である。
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