本研究は、3次元多様体や結び目など低次元トポロジーの研究を行い、得られた結果や他のトポロジーの結果を総合的にDNA絡み目に働く酵素の作用の解明などに応用することを目的としている。DNAのトポロジーを変える酵素の作用は、交差交換やバンド手術といった比較的簡単な有理タングル手術でモデル化される。有理タングル手術全体にトポロジーの観点からの同値関係を導入することで、有理タングル手術の分類を考えることができる。この分類をもとに具体的に与えられた基質と生成物に対してどんな交差交換やバンド手術が可能であるか調べることが1つの課題であった。この観点では、2つの有理タングル手術の基質と生成物がどちらも同じ絡み目であっても同じとは限らない。したがって、単にバンド手術や交差交換が可能かどうかという問題よりも難しい問題と言える。ザイフェルト曲面を用いた手法によって、ファイバー絡み目同士の交差交換や向きに同調したバンド手術が、ファイバー曲面上のcleanまたはonce-uncleanな弧に沿って起こることが分かっており、具体的に与えられたファイバー絡み目についてこれらを調べることによって交差交換やバンド手術の特徴付けを行なってきた。これに関連してトンネル数1のファイバー絡み目の結び目解消トンネルもファイバー曲面上のcleanな弧であることが知られている。本年度は特にトンネル数1のファイバー絡み目のcleanな弧についての研究を行った。この研究によって交差交換やバンド手術の特徴付けへの応用が期待できるだけでなく、トンネル数1のファイバー絡み目の構成を包括的な視点から捉えることができると期待できる。また、向きに同調しないバンド手術に関しては、従来のザイフェルト曲面を用いた手法が機能しないため、新たな手法を開発し同様に具体的なバンド手術の特徴付けに応用することが今後の課題として残った。
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