研究課題/領域番号 |
17K14218
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 治哉 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10614985)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シュレディンガー方程式 / ストリッカーツ評価 / 散乱理論 / 非線形消散型波動方程式 / 漸近完全性 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の3点について研究を行なった。 (1) 昨年度までに行なってきた尺度臨界ポテンシャルを伴うシュレディンガー作用素のスペクトル解析および初期値問題の大域解析をさらに推し進め、一様ソボレフ不等式およびストリッカーツ評価が成立するための許容付に対する条件を昨年度の結果に比べて改良した。特に、ハーディーポテンシャルに対して、非許容対に対するストリッカーツ評価 (いわゆるエキゾチックストリッカーツ評価) を証明した。このような相対コンパクト性を持たないポテンシャルを伴う場合にエキゾチックストリッカーツ評価を示したのはこれが初めてであり、非線形問題への応用が期待できる。 (2) 線形散乱理論において、ソボレフ空間上で波動作用素の存在と漸近完全性が得られるための十分条件を抽象的な枠組みで導出した。ユークリッド空間上のシュレディンガー作用素に対する波動作用素をエネルギー空間で考えた場合に、この条件は通常の短距離型ポテンシャル、滑らかな長距離型ポテンシャル、尺度臨界ポテンシャル、一次元点相互作用(ディラックデルタポテンシャル)など極めて広範囲のポテンシャルに適用可能である。さらに応用例として、これらのポテンシャルを伴う非線形シュレディンガー方程式に対するエネルギー空間における自由解への散乱について既存研究の精密化を行なった。 (3) 時間に依存する尺度不変な摩擦とポテンシャルを伴う非線形消散型波動方程式に対して、時間大域的なストリッカーツ評価を証明した。その応用としてエネルギー臨界なべき乗型非線形項の場合に、解の時間大域的な漸近挙動の解析を行なった。このような尺度不変な摩擦を持つ非線形消散型波動方程式に対して有限時間爆発の結果は数多く存在するが、時間大域な漸近挙動の解析を行なったのは、極めて特殊な例を除いてこれが初めてである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果は、第一に非線形散乱理論への応用という視点から大きな進展があった。特に、研究実績の概要 (2) で挙げたソボレフ空間上の線形散乱に関する抽象理論は、広範囲の線形ポテンシャルを伴う非線形分散型方程式に対するエネルギー空間上の散乱理論に応用が期待できる。また、前年度までの研究テーマについても、研究成果の精密化・改良などの着実な進展があった。さらに、研究実績の概要 (3) で挙げたように時間に依存する尺度不変ポテンシャルを伴う場合の研究にも進展が見られる。一方、これらの研究を推し進めたために、非自己共役シュレディンガー作用素のスペクトル解析については解析手法の開発など技術的な進展はあったものの、新たな結果を得るまでには至らなかった。以上を勘案すれば、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づき、以下のテーマについて解析を行う。(1) 非自己共役シュレディンガー作用素のスペクトル解析。特に、固有値に対する Lieb-Thirring 型不等式の解析。(2) これまでに得られた線形散乱の結果の非線形散乱への応用。(3) これまでの研究成果のより一般的な分散型方程式への拡張。特に、高階および分数べきシュレディンガー作用素への拡張。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表のための国内出張1件および海外出張1件を予定していたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響でキャンセルになった。年度末であったため、物品などは購入せずに次年度使用とした。研究計画に基づき、年度前半は論文執筆に必要なPCや周辺機器の消耗品の購入を計画している。年度後半はこれらに加えて、新型コロナウイルスに関連する移動自粛・制限の緩和がなされる場合には研究打ち合わせや研究成果発表の出張経費に使用する。
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