本年度は、以下の2点について研究を行なった。 1. 昨年度に引き続き複素行列値ポテンシャルをもつ非自己共役な Dirac 作用素のスペクトル解析を行い、複素固有値のスペクトル半径に対するシュレディンガー作用素の場合と同様の Keller-Lieb-Thirring 不等式が成立するようなポテンシャルの行列構造を導出した。これは昨年度の結果の改良にあたる。 2. 漸近的 Minkowski 空間における Klein-Gordon 作用素のレゾルベントに対して、計量の摂動が十分小さい場合に、エネルギーパラメータに関して一様な極限吸収原理を証明した。これは近年盛んに研究されている Feynmann propagator の存在と深く関係している。特に、今回の結果を用れば Gell Redman-Haber-Vasy が構成した Feynmann propagator が Gerard-Wrochna による Feynmann propagator の質量消滅極限であることを証明できるのではないかと期待している。
研究期間全体を通して、本研究課題では尺度臨界ポテンシャルを伴うシュレディンガー方程式の時間大域性質およびスペクトルの性質を定性的なノルム評価式を用いて解析した。また、これを非線形シュレディンガー方程式の散乱理論や非自己共役作用素のスペクトル解析に応用した。これらはこれまでの既存研究を一般化・精密化し、シュレディンガー方程式の大域挙動およびシュレディンガー作用素のスペクトルに対する理解を深めるものである。また、非線形分散型方程式系の大域挙動の解析など、当初は予想していなかった応用なども見つかっている。
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