研究課題/領域番号 |
17K14219
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
眞崎 聡 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20580492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非線型シュレディンガー方程式 / 散乱問題 / 遷移現象 / KdV 方程式 / 最小化問題 / 質量劣臨界 / 長距離散乱 / 線形ポテンシャル |
研究実績の概要 |
本研究では、主に3つの課題がある。それぞれの進捗について分けて述べる。 まず、漸近自由解からの遷移現象の解析について。今年度は、Killip 氏、Murphy氏、Visan氏らとの共同研究のために、ドイツで開催された研究集会への参加、Murphy氏の招聘、さらに4週間のアメリカ滞在を行った。その結果、負の微分階数をもつSobolev空間において質量劣臨界NLS方程式に関する漸近自由解からの遷移現象を解析することができた。この研究結果は現在論文としてまとめ投稿中である。遷移現象で負の微分をもつ場合を扱った初めての結果である。これまでは、重み付き空間やフーリエルベーグ空間など、少し特殊な空間を用いることで負の微分を避けていた。なお、境界にある解の素性の解明にまでは至らなかった。この結果以外にも、一般化KdV方程式に関しても、フーリエルベーグ空間での解析を行った。ソリトン分解予想とも関わる興味深い問題が残った。 基底状態からの遷移現象の解析について。今年度は、Murphy氏、瀬片純市氏とポテンシャルを付けた場合のシュレディンガー方程式を研究した。基底状態解からのずれを解析するには、ポテンシャルのついた方程式に関する理解が欠かせない。この理解のため、影響の詳細な解析が可能であるデルタ函数ポテンシャルを取り扱い、解の長距離散乱を研究した。この研究は3番目の研究とも関わっている。この研究結果は論文としてまとめ発表した。 長距離散乱への拡張について。宮崎隼人氏、瓜屋航太氏と必ずしも多項式ではないような一般の斉次非線形項を考え、解の修正散乱に関する研究を行った。その結果、空間3次元の場合の解の終値問題を解析できた。空間3次元では、非線形項が分数べきを持つため、技術的な工夫が必要であった。また、一般次元における否定的な結果についても考察を行った。これらの結果は論文としてまとめ、現在印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漸近自由解からの遷移現象については、概ね予想通りの進捗が得られた。遷移現象の解析には、最小化問題の達成元として得られる特殊な解の解析が必要である。質量劣臨界分散型方程式におけるこの解析は、当初大きな困難が予想されていたが、この部分に関して事前の想定よりもスムーズに進み、十分な成果が得られた。また、結果に至っていないが、共同研究において境界にある解の素性についても有力な知見が得られた。 基底状態解からの遷移現象の解析については、やや想定よりも遅れている。線形ポテンシャルがついた場合の解析についての理解など、一定の成果は得られた。 長距離散乱についての解析については、想定以上の結果が得られた。空間3次元における解析には、非線形項が分数べきであることに起因する調和解析的な困難があり、それをうまく解決することができた。また、否定的な結果においては、当初の想定よりも一般的な結果を得ることができた上に、有限時間爆発の結果も得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
漸近自由解からの遷移現象については、計画の変更はない。今年度は、Killip氏、Murphy氏、Visan氏を招聘して、共同研究を推進する。 ただし、困難な課題であり成果を確実視できるものではない。そこで、計画を微修正し、副次的な問題にも並行して取り組むことにする。 質量劣臨界では、負の微分と向き合うことが自然に必要となる。これらの分野で非常に強力であることが知られている手法としてフーリエ制限法がある。質量劣臨界方程式の遷移現象の解析の技術的な進化を目指し、フーリエ制限法を用いた解析と本研究の課題である最小化問題の解析との融合を目指す。専門家である Koch 氏と議論を行い。効果的に研究を進めていく。それ以外にも、多角的な視点からの解析を可能にするために、異なる方程式についての遷移現象の解析を行う。必要ならば共同研究を行う。 基底状態からの解析には、当初の想定以上の困難さがあることが分かってきた。当初の計画よりは遅れることが見込まれる。上で述べた副次的な研究にある程度リソースを投入することにより、課題全体としての進捗が得られるように工夫する。 長距離散乱については、遷移現象の解析とうまく組み合わせることのできる枠組みの構築を目指すことが重要であると考える。近年、波束を用いた長距離散乱についての技術が開発されており、その優位性について期待されている。この新しい技術の応用についての可能性について検討する。そのために、必要であれば、専門家を招聘するか、あるいはこちらから訪問して直接議論を行い、研究を進める。
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