研究課題
2017年度は,当該研究課題の初年度にあたる。なお,本研究は科学研究費課題「周期的シュレディンガー作用素のスペクトラルギャップの解析」(課題番号25800085)からの継続課題を含むため,本年度中にいくつかの論文に動きがあった。まず,①「周期的に破損したカーボンナノチューブ上のシュレディンガー作用素に対するスペクトル構造」の論文が6月に数学誌に掲載された。また,②スーパーカーボンナノチューブ(カルビン結合を考慮したカーボンナノチューブ)上の周期的シュレディンガー作用素のスペクトル構造に関する論文の掲載受理通知を12月に受けた(掲載は2018年度予定)。また,③多重結合を考慮したジグザグナノチューブ上の周期的シュレディンガー作用素のスペクトル構造に関する論文を5月に投稿し,掲載受理連絡を受けた(掲載は2019年度予定)。これらは,本研究の目的の「(I)新しいカーボンナノチューブに対応するシュレディンガー作用素のスペクトル理論の研究」に該当する。③は,炭素の原子番号が6であることから,対応するグラフの頂点から生えている辺の個数は4であるとした場合のモデルを含んでおり,実際には,炭素のみならず他原子を含んで構成されるジグザグ型ナノチューブを想定して定式化をしたものである。従来のモデルとは異なり辺の個数を一般化することで,辺の個数の調整によっては同じサイズのジグザグナノチューブであってもスペクトル構造は異なる結果になるようにできることを示した。実際,スペクトラルギャップが閉じることはないサイズのジグザグ型ナノチューブに対しても,辺の個数を調整することによってスペクトラルギャップが閉じたモデルにすることができることを示した。また,④カーボンナノチューブに対する不均一モデルの解析を行い,興味深い結果が得られたため2019年度の公表に向けて論文執筆を開始している。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で述べたとおり,「周期的に破損したカーボンナノチューブ上のシュレディンガー作用素のスペクトル構造」に関する論文が数学誌に掲載され,また,「スーパーカーボンナノチューブ上の周期的シュレディンガー作用素のスペクトル構造」に関する論文,「多重結合を考慮したジグザグナノチューブ上の周期的シュレディンガー作用素のスペクトル構造」に関する論文が次年度以降数学誌に掲載されることとなったため。また,ドイツで開催された研究集会「Nonlinear Partial Differential Equations on Graph」で招待講演依頼を受けて実施し,参加した研究者から研究の方向性を定める新たな知見が得られたほか,スロバキアでの研究成果発表も行った。また,これまでの周期的なカーボンナノチューブの構造を壊し,不均一モデル(不純物を含有する場合)についての解析手法を勉強し,未解決の問題に取り組んでまとまりのある結果が得られて執筆に着手できたため。
2019年度は,不純物を含有するカーボンナノチューブ上のシュレディンガー作用素のスペクトルについて得られた結果を論文に取りまとめて投稿する。そのため,いくつかの研究集会で得られた成果を公表することも考えている。例えば,次年度は国外の研究集会として国際数理物理学会が主催する「ICMP2018」が控えているため,その若手向けの研究集会で講演し,ヨーロッパ数学会会長のPavel Exner氏らから評価を受け,場合によっては論文執筆に還元させる。今後は,不純物を有する量子グラフ上のスペクトル解析も視野に入れていくつかの問題に取り組んでいく予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Proceedings of the Indian Academy of Sciences-Mathematical Science
巻: 127, No.3 ページ: 471-516
10.1007/s12044-017-0342-7