研究実績の概要 |
本年度は, 新型コロナウィルス感染症の影響で当初予定からの期間延長を経て, 本研究課題の最終年度を迎える。昨年度末に掲載された論文「Edge states of Schroedinger equation s on graphene with zigzag boundaries」について, 昨年度は口頭発表の機会を得ることが限定的であったが, 本年度はオンライン開催の形で東北大学の「確率論セミナー」、京都大学の「作用素論セミナー」において口頭発表の機会を作って頂くことができ, 研究成果の周知をすることができた。その他, 本年度は, 上記の論文で用いたShnol型定理によるスペクトル解析の手法を活用し, さらに複雑な境界を有するグラフェン上のシュレディンガー作用素のスペクトルの解析に試みた。周期構造を保ったまま領域を複雑化することにより, 基本領域上の移動行列は2次正方行列から4次正方行列へと複雑化された。成分の複雑さからその固有値・固有ベクトルの計算は手計算は困難と思われたが, 基本領域の調整によって特殊なブロック分割の構造を持つ4次正方行列にすることができることに気付き, 直接計算の部分は大幅に削減されて代数的に固有値・固有ベクトルの計算が進められた。Shnol型定理の観点から, 基本領域上のシュレディンガー方程式の解の L^2 ノルムの漸近系の評価を進める際は, 発散に寄与する項の存在・非存在を調べる問題を非同次4元連立1次方程式の問題へと帰着した。この方程式を直接解くことは係数の複雑さから現実的でなく, 線形代数の初等的内容であるクラメルの公式を用いて解決した点も大きな突破口となった。本研究成果は論文に取りまとめて投稿し, RIMS共同研究「スペクトル・散乱理論とその周辺」での口頭発表も行った。当該研究で培った技法は次期研究課題に継承し, 更なる解析を進める。
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