研究課題/領域番号 |
17K14223
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
菊池 弘明 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00612277)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / 非線形楕円型方程式 / 基底状態 / 一意性 / 非退化性 / 爆発 / 散乱 / 変分法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は赤堀公史氏(静岡大)、生駒典久氏(慶應大)、Slim Ibrahim氏(ビクトリア大)、名和範人氏(明治大)との共同研究により、二重冪でそのうちの一つはソボレフ臨界冪であり、もう一つはソボレフ劣臨界冪の非線形項をもつ非線形楕円型方程式の基底状態の一意性と非退化性について調べた。具体的には、空間領域が5次元以上の全空間の場合は、振動数が十分大きいならば、基底状態は一意であり、さらに非退化でもあることを示した。基底状態が十分大きいときは、Talenti関数と呼ばれる明示的に書ける関数に収束することが分かっているが、このTalenti関数が退化していることが原因して、通常の摂動法を用いては一意性を得ることは出来ない。そのため、ここではKelvin変換を用いて、基底状態の一様な減衰評価を得ることによりこの困難を克服した。 さらに、この結果を利用して、二重冪の非線形項を持つ非線形シュレディンガー方程式の解の大域挙動に関して調べた。具体的には、空間次元とソボレフ劣臨界の冪に関して、幾つかの条件の下、基底状態よりも少しだけ大きいエネルギーを持つ解の挙動は9つの種類に分類されるということを示した。同様のことは、Nakanishi-Schlag(2012)が既に単純冪の非線形シュレディンガー方程式で示したが、それに対応する結果である。 次に、基底状態に関連する最小化問題について考えた。この最小化問題の最小元は基底状態になることが分かる。空間領域が3次元の場合は、ソボレフ劣臨界の冪の指数が小さい場合は、振動数が十分大きいときは、最小元が存在しないことが分かった。さらに、ある振動数が存在して、それ以下であれば最小元が存在して、それより大きいと最小元は存在しないことが分かった。これは4次元以上とは異なる現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二重冪でそのうちの一つはソボレフ臨界冪であり、もう一つはソボレフ劣臨界冪の非線形項をもつシュレディンガー方程式について、基底状態より大きいエネルギーを持つ解の大域挙動を解析することが目標である。
現在は空間次元とソボレフ劣臨界冪の指数に関して、幾つかの技術的な条件を課せば、Nakanishi-Schlag(2012)のように解の挙動が9つの種類に分類することが出来る。そのため、この技術的な条件を取り除くことが課題である。この条件が課さなければならない理由の一つは、one pass theoremと呼ばれるもののために必要だからである。そのため、このone pass theoremを一般的に成立するように解析したい。技術的な条件が必要なもう一つの理由は、基底状態の非退化性である。5次元以上のときは、振動数が大きい場合は非退化であることが分かっているが、3次元のときは、Talenti関数の無限遠方での減衰が遅いことが原因し、困難が生じる。3次元については、Coles and Gustafson(preprint)が基底状態の一意性を示しており、彼らの解析が役立つのではないかと考えている。
もし上の研究がうまくいけば、ソボレフ臨界冪と質量臨界冪という2種類の臨界冪を持つシュレディンガー方程式の解の大域挙動の解析にも役立つ。質量臨界における単独冪の非線形項を持つシュレディンガー方程式の基底状態は線形安定であることが分かっている。そのことが質量優臨界と同様には調べることが出来ない原因の一つになっている。しかし、ソボレフ臨界冪と質量臨界冪という2種類の臨界冪を持つシュレディンガー方程式の場合は、ソボレフ臨界冪の影響により、基底状態は線形不安定であることが分かった。そのため、上で述べたone pass theoremが成立すれば、解の大域挙動を分類することが出来ることが分かっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後取り組む具体的な問題としては、引き続き二重冪の非線形項を持つ非線形シュレディンガー方程式の解の大域挙動についてである。特に、振動数が大きいときの基底状態の場合やソボレフ臨界冪と質量臨界冪という2種類の臨界冪を持つ場合を調べたい。そのためには、上で述べたone pass theoremが一般的に成立するかどうかということや、空間3次元のときの基底状態の非退化性が得られないかどうかについて考えたい。さらに、空間領域が3次元のときは、振動数が大きいと基底状態が存在しないことがこれまでの研究により分かっている。この場合において解の大域挙動はどのようになっているのかということについても解析したい。例えば、Talenti関数に漸近するような解があるかどうかなど、これまであまり見られなかった現象が起きていると興味深いのではないかと思われる。
推進方策としては、平成30年度は海外研修期間であるため、共同研究者の一人であるSlim Ibrahim氏が所属しているビクトリア大に滞在して、彼と上で書いた具体的な問題について議論をすることで研究を進めたい。また、平成30年度中に一度は、日本にいる共同研究者を招聘し、議論する予定である。得られた研究成果は日本数学会で発表し、また、数学雑誌へ投稿、プレプリントサーバーにアップロードすることにより、国内外の研究者からフィードバックが得られるのではないかと期待している。それらに加え、これまでと同様に、年に一度、分散型方程式を研究している若手研究者を招聘して、研究集会を開催する予定である。そのようにすることで、これまで行ってきた研究の発展や今後の研究に役立つのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は海外研修を行うことが決まり、ビクトリア大に1年間滞在することになった。研修期間中に、定期的にブリティッシュ・コロンビア大に滞在して、議論する予定である。また、日本にいる共同研究者もビクトリア大に招聘し、議論したいと考えている。これらの理由のため、当初予定したよりもさらに旅費が必要になった。
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