研究課題/領域番号 |
17K14247
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
泉 拓磨 国立天文台, ハワイ観測所, 特任助教 (40792932)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 活動銀河中心核 / トーラス / ALMA / サブミリ波 |
研究実績の概要 |
平成29年度はALMAを用いた活動銀河中心核 (AGN) トーラス研究のスタートとして、近傍宇宙の低光度AGNであるNGC 1097に対する高分解能一酸化炭素分子 (CO) 輝線観測を実施し、そのデータ解析を進めた。その結果、この低光度AGNにおける分子トーラスはガス質量面密度が、同じく近傍宇宙の高光度AGN NGC 1068のものより数倍小さく、また、幾何学的厚みも小さいことが分かった(薄い円盤)。面密度が小さいということは、星形成活動も同様に低いということを意味する。しかるに、トーラスの厚みを支える熱源が不足しているため、薄い円盤となってしまうのだと推論した。この結果は、かねてより理論的に推測されていた、「低光度AGNにおける幾何学的に厚いトーラス構造の消失」という描像と整合する。結果は論文化して発表し、多くの研究会での発表も行なった。
続いて、最近傍AGNであるCircinus銀河において、一酸化炭素分子輝線と炭素原子輝線の高分解能観測をALMAを用いて実施した。Circinusは中程度の光度を示すAGNである。データ解析の結果、分子ガスはAGN直近で幾何学的に厚いものの、半径50光年程度より外部では薄い円盤となっていることを明らかにした。一方、原子ガスは銀河中心領域全般にわたって幾何学的に厚く、分子・原子の相の違いにより、トレースしているガスの力学特性が異なることが示唆された。この多相トーラス構造は、最近の流体力学 + 化学計算モデルの結果とも整合するもので、本研究により初めて観測的に明らかになった構造である。結果は平成29年度末時点で論文化途中であり、平成30年度中に受理される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、NGC 1097の高分解能ALMAデータを解析しきり、その結果を査読論文にまとめて出版することができた。国際・国内研究会での発表(招待講演を含む)も多数こなし、高評価を得た。
続きALMAで取得した最近傍AGNであるCircinus銀河のCO分子・C原子輝線データの解析に関しては、順調に作業が進んでおり、論文執筆段階に到達している。この間、研究協力者である鹿児島大・和田桂一教授のグループを訪問し、理論的観点から観測結果の解釈について深く議論も進めてきた。理論・観測がよく整合する結果が得られており、論文発表時のインパクトは大きいと期待できる。
さらに、当初計画していなかった研究として、極めて高いペースで質量降着しているAGNの母銀河のガスの性質を、ミリ波を通じて調査した。その結果、そうした高降着AGNはガスが豊富な系に存在することが明らかになった。この結果を外挿すると、ガスが宇宙全体で豊富だった宇宙初期時代には、斯様な高降着AGNも大量に存在していたと想定される。これは、初期宇宙で発見されつつある超大質量ブラックホールの形成過程に示唆を与える結果である。こちらも論文化して出版することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの一連の研究により、AGN周辺における分子・原子ガスのALMAによる高分解能観測データの解析(特に力学解析)、結果の解釈スキームに関して、申請者にはノウハウが蓄積されてきている。今後は、まずは現状の流れを維持して、より多くの天体で同様の研究を進め、AGNトーラスの構造の統計に基づく性質を把握したい。
さらに、トーラスの内部構造・物理化学的構造(組成等)の解明のために、観測データを理論モデルと直接比較することにも挑戦する。そのために研究協力者の鹿児島大・和田桂一氏と密に連携をとっており、「流体シミュレーションの結果を疑似観測し、それを観測と比較することで、モデルパラメータを制限する」という一連の手法を構築しつつある。平成30年度はこのスキームを確立させることに努める。
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