研究実績の概要 |
活動銀河中心核を取り囲んでいる幾何学的に厚いガスや塵の遮蔽体(トーラスと呼ばれる)が形成される物理的要因を解き明かすため、最新の電波干渉計であるALMA望遠鏡と、流体計算を組み合わせた研究を展開した。まず、最も近傍の活動銀河中心核であるCircinus銀河の中心部を、高密度分子ガスを探査するCO(3-2)輝線と、低密度原子ガスを探査する[CI](1-0)輝線を用いて高解像度観測した。この観測はALMA Cycle 4期になされたものであり、[CI](1-0)輝線の空間分解能 = 15 pcは、現時点で活動銀河に対するデータとして最高のものとなっている。得られたデータから各相(分子・原子)のガスの空間分布や、力学構造を調査した。結果、銀河核近傍では、高密度分子ガスは円盤構造を示す一方、低密度原子ガスにはアウトフロー(噴出流)現象が見られることが分かった。しかし、アウトフローの速度は著しく早いというわけではなく、銀河中心ブラックホールの重力に引かれて結局は中心核近傍に再び落下してしまうことも分かった。つまり、銀河核近傍では、「ブラックホールに流入するガス」「アウトフローとして流出するガス」「結局は銀河核近傍に舞い戻って来るガス」の力学的な三成分が存在する。Circinus銀河に対して専用に行なった我々の流体計算 + 化学組成計算 + 輻射輸送計算の結果との比較から、上記の三成分があたかも「噴水」のように作用して、「トーラス」状の幾何学的に厚い構造を成していることが判明した。したがって、活動銀河中心核トーラスモデルの30年来の謎であった、「トーラスの物理的起源」が解明されたと考えている。
以上の成果は、米国の天体物理学誌にて発表した(T. Izumi et al. 2018, The Astrophysical Journal, vol 867, 48)。
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