研究課題
本研究の目的は、天の川銀河恒星ハローに含まれる金属欠乏星大規模観測データを用いて、天の川銀河における物質集積過程と化学進化を解明することである。当該年度は、(1)超新星爆発理論イールドモデルと最新の銀河系元素組成サーベイデータの比較による初代星元素汚染履歴の探査と、(2)すばる望遠鏡アーカイブデータを活用した中分散分光データ解析手法の開発の2つのテーマに重点的に取り組んだ。(1)昨年度までに構築した初代星超新星爆発理論イールドモデルと、最新の銀河系高分散分光サーベイ「GALAH」で得られた元素組成情報、Gaia衛星で得られた年齢、軌道運動情報を組み合わせ、初代星元素汚染による影響を強く受けた銀河系ハロー星を抽出することに成功した。成果の一部は2018年12月に自らがCo-Chairとなって開催した国際研究会で口頭発表したほか、成果をまとめた論文を現在執筆中である。(2)金属欠乏星の大規模観測データの到来に備えた元素組成解析手法の開発を進めた。今年度はすばる望遠鏡のアーカイブデータと、Gaia衛星で得られた距離のデータを組み合わせた恒星物理パラメータの決定と元素組成測定を継続して実施し、精度の向上を図った。4月には今後世界中で実施される大規模分光サーベイに備えたスペクトルライブラリの構築に関する国際ワークショップに参加し、世界の最新の動向について情報収集したほか、今後克服すべき課題を明確にした。成果の一部は11月に上海で行われた国際研究会でポスター発表し、現在論文にまとめている。またすばる望遠鏡の次世代分光観測装置PFSによる天の川銀河サーベイについてのサイエンス検討会議(プリンストン大)、コラボレーション会議(上海交通大学)に参加し、分光データ解析に関する議論に参加した。またPFSについて当該分野の国際コミュニティに広く紹介する講演を上記の上海での国際研究会で実施した。
2: おおむね順調に進展している
元素組成解析手法の開発は、アーカイブデータを用いた基準星の構築に関しては概ね当初の目的を達成しつつあるが、今後慎重に精度の向上に努めていく必要がある。また基準星を活用して実際に大規模観測データに適用する段階は、今後の課題として残されている。超新星爆発元素合成理論モデルのサーベイデータへの適用では予想を超える興味深い成果が得られており、今後さらに時間をかけて得られた結果の意味するところを考察していきたいと考えている。
当該年度までに、超新星爆発元素合成理論モデルと最新の金属欠乏星分光データとの比較から、初代星とそれに引き続く第二世代星による宇宙初期の元素汚染、化学進化に関して興味深い結果が得られた。今後はまずこの結果を初代星元素汚染シミュレーションや解析的モデルと比較し、観測結果の意味するところを徹底的に考察する。結果と議論、考察を論文にまとめて発表する。また当該年度までに得られている結果について、2本の招待講演(2019年5月、2020年3月)を予定している。金属欠乏星元素組成解析に関しては、当該年度までに得られた基準星の元素組成を活用して、スローンデジタルスカイサーベイ等で得られた中分散分光データを実際に解析するコードを整備し、改良を重ねていく。結果を論文にまとめ、発表する。
自身の所属機関の移動もあり、科研費で購入予定の物品や出張による執行が遅れたために、次年度使用額が生じた。今年度は5月に2つの国際研究会に参加予定であり、その旅費として使用する。また計算機関連、書籍、消耗品の購入を予定している。
すべて 2020 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 482 ページ: 1204, 1210
10.1093/mnras/sty2783
Publications of the Astronomical Society of Japan
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10.1093/pasj/psy092
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10.1093/mnras/sty1387
https://researchmap.jp/miho-n-ishigaki/