本研究の目的は、天の川銀河に生き残る古い恒星の分光データに基づいて、天の川銀河の形成過程および元素汚染史を明らかにすることである。今年度は将来計画されている大規模分光サーベイプロジェクトを見据え、古い恒星(金属欠乏星)の分光観測からどのような情報が得られ、天の川銀河形成と元素汚染史の何が明らかになるか、最新の元素合成理論に基づいて検証する研究を集中的に行うとともに、前年度までの成果を複数の国際会議(招待講演を含む)で口頭発表した。まずGaia衛星など最新の恒星データベースから選択した年齢の古い恒星を選び出し、別の分光サーベイで得られている元素組成データと、恒星・超新星爆発元素合成理論との比較を行なった。その結果、年齢が古い恒星の元素組成は重い星の重力超新星型超新星爆発、低・中質量星のIa型超新星爆発、初代星超新星爆発から期待される元素組成、あるいはそれらの重ね合わせで組成の一部がよく説明できることを明らかにし、それらの解釈がどのようなモデルパラメータに依存するか詳細な分析結果を得た。この成果をまとめた論文を現在執筆中である。また天の川銀河の古い恒星系の分光観測からどのようなことが分かってきたか、そして今後予定されている大規模サーベイプロジェクトで何が期待されるか、銀河系の恒星系をテーマとした国際研究会でレビュー講演を行い、その内容を元にした論文を紀要として出版した。また分光サーベイプロジェクトで最重要課題となる元素組成の導出に関連して、得られた測定値を評価する上で重要な基準星の整備に前年度に引き続き取り組んだ。現在これらの基準星を用いて分光サーベイプロジェクトで得られる恒星データからどのような物理量をどのくらいの精度で導出できるかシミュレーションで検証する準備を整えている。
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