研究課題
平成29年度は、10個の棒渦巻銀河に対する解析を行った。まず、野辺山45m電波望遠鏡で観測したCO(1-0)輝線データの処理を完了し、分子ガスの質量および視線方向の運動情報に関するマップを作成した。さらに、世界中の可視光・赤外線の望遠鏡で取得されたアーカイブデータを活用し、星形成率のマップも作成した。各渦巻銀河の円盤領域を、「渦巻腕」、「棒構造」、「棒構造の終端部」の3つに分類し、それぞれの領域について平均の速度分散と星形成効率(単位分子ガス質量あたりの星形成率)を導出し、「分子ガスの速度分散 vs. 星形成効率」の二次元プロットを作ることで、両者の関係を調べた。すると、棒状構造では典型的に分子ガスの速度分散が大きく、一方で星形成効率が低く抑えられていたが、逆に渦巻構造では分子ガスの速度分散は小さく、星形成効率は高いことが明らかになった。棒構造の終端部では、棒構造の傾向に近いものから渦巻腕の傾向に近いものまで、その特徴が分かれたが、分子ガス速度分散が大きいほど星形成効率が低い、という傾向は同じであった。この結果は、当初予想していた、「分子ガスの速度分散(すなわち、分子雲同士の相対速度)が大きすぎると、分子雲衝突時の合体がうまく進まずに星形成発現を阻害する」という、当初の予想を支持する傾向を観測的に得ることができた。こうした傾向を大規模な分子ガスサーベイで明らかにしつつあるのは本研究が初めてであり、現在、さらなるサンプル拡大に向けて、精力的に取り組んでいる。
3: やや遅れている
初年度となる平成29年度は、10個の棒渦巻銀河に対して分子ガスおよび星形成に関するデータの収集・解析を進めることによって、分子ガスの速度分散と星形成効率の関係について一定の知見を得ることができた。しかし、計画当初は30個の棒渦巻銀河に対して同様の解析を行うことを目指しており、多少の遅れが生じている。これは、主に野辺山45m電波望遠鏡の故障や天候不良によって観測が予定通りに進まなかったこと、またCO(1-0)輝線データの解析や最終マップの作成が予想以上に難航していることが原因である。野辺山45m電波望遠鏡による観測については、平成29年度の後半に追加観測を行った。また、CO(1-0)輝線データの解析もまもなく完了する目途が立っており、これまでの遅れを取り戻す準備は整ってきている。
初年度に得られた成果、すなわち、「銀河の棒状構造では分子ガスの速度分散が大きく、星形成効率が低い。逆に、渦巻腕では分子ガスの速度分散が小さく、星形成効率が大きい」という観測的事実が、広く一般的なものであるかを確かめていく。具体的には、未解析のCO(1-0)観測データの解析を進めて、「分子ガスの速度分散 vs. 星形成効率」の二次元プロットに載せるサンプルをさらに拡大する。この点については計画よりもやや遅れているので、急いで解析作業を進める。また、銀河のパラメータ(銀河のハッブル型や棒構造の形状や長軸/短軸比)の違いによって、分子ガス速度分散や星形成効率がどう影響を受けるかも同時に調べていく。このように、多様な評価軸を駆使した解析を通して、最終的に、「銀河の棒状構造で星形成が抑制される原因が分子雲同士の大きな相対速度にあるのか」を、大規模な観測データに基づいて検証・解明する。
旅費として使用した額が当初の計画よりも少なかった。これは主に、データ解析や結果の解釈に関する議論・打ち合わせを、実際に出張するのではなく、テレビ会議などを通じて開催したことが多かったためである。今後、結果の解釈についてより本格的な議論を進める上で、国内、また必要に応じて海外出張を精力的に行い、本研究成果の最大化をはかる。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 69 ページ: 67(1-14)
10.1093/pasj/psx044
http://www.nro.nao.ac.jp/news/2017/0911-sorai.html#sfp