研究課題
令和元年度は、渦巻銀河における星形成効率の空間変化をもたらす要因を追究すべく、さらなる解析を行った。計画初年度では、空間分解した分子ガスの速度分散が大きいほど星形成が抑制される(星形成効率が低くなる)ことを明らかにしたが、それでは分子ガスの速度分散が大きくなる原因は何なのか?という観点のもとで、銀河を特徴づけるさまざまなパラメータとの比較を試みた。しかし、銀河の早期型や晩期型、また渦巻腕のアームクラスといったパラメータとは、明確な相関が見られなかった。そこで今度は恒星の分布に着目したところ、近赤外線光度から算出した星の質量面密度が大きいほど、その領域での分子ガスの速度分散が大きくなる傾向があることを初めて発見した。これは棒構造や渦巻腕といった銀河の構造に関係なく、星の質量面密度という単一のパラメータで分子ガスの速度分散を説明しうることを示唆する結果でもあった。星の質量面密度と分子ガス速度分散の相関についての物理的な起源はまだ明らかにできていない。しかし、星の質量面密度が大きい領域では、その恒星系を支えるために星の速度分散が大きくなり、それに引きずられて分子ガスの速度分散が大きくなる、という説明は考えられる。観測的には、星の速度分散と分子ガスの速度分散の相関関係を数100パーセクの空間スケールで調べていく必要があるだろう。最終年度にして解決すべき課題を新たに発見する形にはなったものの、星の質量面密度と分子ガスの速度分散という一見さほど関係がなさそうな二つのパラメータに明確な相関を見出したこと自体は、本研究計画開始当初は想定していなかった大きな達成項目であった。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 71 ページ: S13
10.1093/pasj/psz022
巻: 71 ページ: S14
10.1093/pasj/psz115
巻: 71 ページ: S15
10.1093/pasj/psz015