研究課題
宇宙における距離指標として扱える天体は限られている。Ia型超新星はその一つであり、絶対光度が明るく光度変化と絶対光度に強い相関関係を持つ。この性質を用いて、宇宙遠方の銀河の距離を測定する標準光源としての役割を担ってきた。それにも関わらずその爆発前の形態は依然として明らかになっておらず、その正体の究明が待たれている。理論的には、連星系において通常の恒星からの降着によって白色矮星が爆発に至る"降着説"と白色矮星同士が長い時間をかけて合体・爆発に至る"合体説"が提唱されている。"降着説"では星周物質の存在が期待される一方、"合体説"においては拡散によりほとんど周囲に物質は残らない。私は、ある特異な超新星について星周物質起源の赤外再放射を捉えたが、このような手法は未だ発展途上にあり、多くのIa型超新星に適用されるべきである。本研究計画においては、Ia型超新星の長期の可視近赤外線観測を実施し、星周物質の質量に制限を与え、爆発する星の正体に迫ることを目的としている。初年度として、私は広島大学かなた望遠鏡を用いて、明るいIa型超新星の可視・近赤外線のモニター観測を実施した。得られたデータを光度曲線およびスペクトルとして解析した。また、これらのデータに基づき、各々の天体の性質を詳細に調べている。今後、これらのデータに基づき赤外放射から星周物質の質量に制限を与える解析を進める予定である。また、一方で理論的な側面から研究に進捗があった。超新星からの放射が星周物質でどのように吸収再放射を行うか、特に幾何構造に焦点を当て理論的な知見を得た。それによれば少なくとも星周物質は非球対称的な分布を示し、特に双極状の構造を持てば観測データを説明しうることがわかった。私は、観測データに基づく知見を示し研究に貢献した。
2: おおむね順調に進展している
赤外放射に観測的な制限を与えるために、長期の可視・近赤外線観測の実施が必要となるが、広島大学1.5mかなた望遠鏡による柔軟的・機動的な観測によって順調にデータを得つつある。特に、今年度は比較的近傍銀河でのIa型超新星の発見が多く、当初目標の15天体のサンプルのうち、すでに8天体についてデータを取得することができた。また、システマティックなデータ解析を実現するため、パイプラインの構築も実施した。これらを通じて、光度曲線データおよびスペクトルをほとんど現在進行の形でチェックしている。また、これらのデータに基づいた観測的性質の研究も進めている。すなわち、従来の良く確立された分類スキームに従って、サブクラスへの分類を進めエジェクタの物理量を推定するに重要な観測量を見積もっている。また、理論的研究において発展があった。超新星放射に基づく星周物質の吸収再放射の理論計算とこれまですでに出版されているデータとの比較検討を行った。その結果、星周物質は非球対称的な幾何構造を持つことがわかった。この研究においては、偏光度・偏光方位角の時間発展の予言も示唆されており、偏光観測機能を持つ観測装置が運用されているかなた望遠鏡の将来的な観測でこれを捉えることができるのではないかという新たな見通しを持つことができた。
これまでに取得したIa型超新星のサンプルについて、星雲期観測を実施する。超新星は時間とともに膨張し、十分時間が経過したのちに大気全体が光学的に薄くなる。この時、分光観測を実施すれば輝線放射が見られる。"降着説"に基づけば、超新星爆発時に伴星が持つ水素の外層を剥ぎ取り、エジェクタに取り込むことが期待される。いくつかの理論的研究に基づけば、星雲期において、膨張速度の大きいエジェクタ成分とは異なる、速度の遅い成分が表出するのではないかと予言されている。我々は、これらの理論的研究に基づき、星雲期スペクトルを用いて星周物質に制限を与えることを目指す。星雲期スペクトルは、超新星が十分に暗くなった1年後に取得できるので、8メートルの大口径であるハワイ観測所すばる望遠鏡を用いる。すばる望遠鏡での観測については、すでに提案書を提出しているが、初期および後期で一貫したデータを取得するため今後も提案を続ける。また、初期についてもかなた望遠鏡を用いて引き続き可視近赤外線データの取得を継続する。これまで取得されている初期観測データを用いてより詳細な比較検討を行い、超新星の観測的性質・エジェクタの物理量の推定を行う。得られたエジェクタの物理量および星周物質の質量の関係性を構築する。このような系統的な研究は依然として実施例がほとんどなく、新たな描像を提示できる可能性がある。
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天文月報
巻: 111 ページ: 172-179
https://www.hiroshima-u.ac.jp/hasc/news/42167
https://www.hiroshima-u.ac.jp/hasc/news/41171