本研究は、星形成領域内で分子進化をコントロールする要因を解明することを目的としている。メインとなるPAH観測データの解析として、中間赤外線帯におけるPAHのスペクトルマッピング観測(波長5-15μm)の基本的な解析を昨年度から継続して行なった。これにより、PAHの空間変化を議論するためのスペクトル情報を得る。解析を進める中で、データの中には品質が安定していないものも多数あり、解析完了にはかなりの時間を要することが分かった。並行して、星形成領域に対する他波長データセットの構築も行なった。近赤外線帯に存在するBrγ、Paβ輝線の観測を通して、星間分子に影響を与える紫外線の定量化を進めている。昨年度までに作成した、2つのナローバンドフィルターを用いた試験観測データの解析を行い、観測データから輝線強度を導出する方法の確立と、求まった輝線強度の精度を評価した。その結果、現状では輝線強度を弱めに見積もる可能性があることが分かったため、キャリブレーション方法の再考が必要である。Brγ、Paβ輝線用のナローバンドフィルターを用いた、星形成領域に対するサーベイ観測も、南アフリカに渡航して進め、比較的まとまったPAHデータがある天体に対しては、データ取得が完了した。また、星形成領域における分子進化を、赤外線のみならず、電波帯でみられる分子に対しても明らかにするため、電波望遠鏡を用いた分子の研究を行った。野辺山45m電波望遠鏡、ALMAを用いてCygnus-X、Oph-A領域の観測を行い、星形成領域において分子がUVを受けた際、分子がどのような光解離反応を起こすかという基本的な理解を深めた。
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