研究課題/領域番号 |
17K14268
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 智之 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (50749629)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 超対称性 / LHC / ATLAS / トリガ / エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では設計値の数倍に強度を上げたLHCにおけるATLAS実験において、新しいミューオントリガシステムを導入することで背景事象を大幅に削減し、トリガレートを効率よく抑え、超対称性粒子グルイーノを2.5 TeV程度の領域まで探索し、その発見に挑む。 2021年より始まる高いルミノシティでの実験に向けて、新しいミューオントリガシステムを導入を目指している。今年度は新しいミューオン検出器のマイクロメガスの信号をトリガとして使うためのトリガプロセッサに搭載するアルゴリズムの構築を進めた。トリガ性能を最大化するアリゴリズムを開発後、詳細な性能評価を行い要求性能を満たすことを示した。この成果は国際会議TWEPPで私が発表した。またNSWトリガプロセッサボードと後段のトリガ判定ボードとの接続試験を行い、本番と同じ6.4Gbpsのデータ転送速度でエラー頻度を測定した。その結果、エラー頻度は十分低いことを確認し、質の高いデータ転送が可能であることを示した。 また36 fb^-1のデータを用いて超対称性グルイーノの探索結果を公表した。特に背景事象の評価に力を入れた。従来の評価手法では、信号領域とできるだけ近い運動学を持つControl領域を定義し、そこでモンテカルロシミュレーションをデータで規格化し、モンテカルロモデリングを用いて信号領域へ外挿する。このためモンテカルロモデリングの不定性の影響を避けられない。最も問題になるのはInitial State Radiation(ISR)ジェットモデリングである。信号領域は多数のジェットを要求するため,ISRのジェットを持つ背景事象が残りやすい傾向にある。そこで私はISRモデリングをデータから導出する手法を開発し、背景事象評価の妥当性を向上させ、論文にまとめることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トリガシステムの開発に関して、本年度はNSWトリガプロセッサに搭載するアルゴリズムを完成させることを目標としていた。アルゴリズムの開発、また詳細な最適化を行い、要求される性能を満たすことを示すことができた。アルゴリズム開発は計画通りに進み、その成果を国際会議で報告することもできた。また次年度に予定していたNSWトリガプロセッサボードと後段のトリガ判定ボードとの接続試験を今年度中に行うことができ、データ転送の質に問題がないことを確認できたことは大きな成果である。 超対称性粒子の探索に関しても、背景事象評価手法を改善し、36fb^-1のデータを用いて最大で2 TeVの質量を持つ超対称性粒子グルイーノを探索できた。残念ながら発見には至らなかったが、この結果を論文にまとめることができたのは大きな成果といえる。 これらの点において本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
基本は当初の計画通りに研究を遂行する予定である。 トリガシステムの開発に関して、30年度は本番用のトリガ判定ボード用のFirmwareを完成させ、更にモニタリングの充実等の本番の運転に向けた頑強なシステムに仕上げていく。また継続してNSWトリガプロセッサボードと後段のトリガ判定ボードとの接続試験を進め、31年度のシステムのインストール前にできる限り問題点を洗い出し、事前に解決策を講じる。同様に他システムとトリガ判定ボードとの接続試験も進め、インストール前に万全を期すつもりである。 超対称性粒子の探索に関しては、従来のような単純な探索手法では超対称性粒子を見つけるに至っていない。今後は今まで見逃していた複雑な崩壊、シナリオを想定してターゲットを絞って探索を進めていく。特に暗黒物質の残存密度測定を良く説明するシナリオに注目して、終状態によりソフトなオブジェクトを持つ崩壊をターゲットとすることで超対称性粒子の発見を目指す。
|