研究課題/領域番号 |
17K14270
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 夏海 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60794328)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超対称性理論 / 大統一理論 / インフレーション |
研究実績の概要 |
電弱スケールの微調整問題を解決する模型の最有力候補に,超対称標準模型がある。この模型において,超対称性の破れのスケールが電弱スケールと同程度である場合,電弱スケールの微調整問題は自然に解決される。しかしながら,現在までのLHC実験の結果は超対称性の破れのスケールが電弱スケールと比較して非常に高い可能性を示唆しており,電弱スケール微調整問題の解としての超対称標準模型は重大な岐路に立たされている。そこで私は,超対称性とリラクシオン機構とを組み合わせることで,超対称性の破れのスケールが高い場合でも電弱スケールの微調整を回避できないかを研究した。この種の模型を考える場合,宇宙論と無矛盾な模型を構築することが重要な点となる。特に,リラクシオン機構は一般に非常に低いインフレーション・スケールを予言するため,これを実現しつつ微調整の無いような模型を構築できるか否かが鍵となる。そこで私は,非常に小さな結合定数を持つU(1)ゲージ相互作用によるDターム・インフレーションを伴うリラクシオン模型を構築し,現在の宇宙論的観測結果と無矛盾なインフレーションが得られることを示した上で,1000PeV程度の高エネルギー・スケールで超対称性が破れたとしても電弱スケール微調整問題が解決されうることを明らかにした。この結果は,高いスケールの超対称性理論であっても電弱スケール微調整問題が解決されうることを実際に示した点で非常に重要であるといえる。 また,超対称性理論を大統一理論の枠組みで考える際には,ヒッグシーノ質量の二重項・三重項分離問題が電弱スケール微調整問題と密接に関わってくる。そこで,これを解決する模型の一つであるFlipped SU(5)模型を考察し,この枠組みのもとで観測と無矛盾なインフレーション模型が構築できることを示した上で,その帰結として予言されるニュートリノ質量スペクトルを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『研究実施計画』作成当初に企画していた3つのトップダウン・アプローチ,フォーカス・ポイント・シナリオ,リラクシオン機構,および大統一理論に基づいた模型構築,のうちの後者2つに関連する研究を本年度のうちに完成させることができた。これらは既に査読を終え学術誌に掲載されている。また,これらの模型を実験的に検証するための方法として,LHC実験における長寿命粒子探索をとりあげ,それによって超対称粒子を発見しその性質を探る可能性についても2件の研究を完成させ,それぞれ雑誌への投稿を終え査読の段階に入っている。加えて,『電弱スケール微調整問題の解としての超対称標準模型』との直接の関連性は少ないが,最小mu-tauゲージ模型におけるニュートリノ・パラメーターへの予言に関する研究,および最近報告されたハッブル・パラメーターの観測結果の間にある不一致を隠れたゲージ相互作用およびそれに伴う軽い粒子を用いて説明する可能性に関する研究を仕上げ,それぞれ学術誌において発表した。一方で,当初計画していた残り1つのトップダウン・アプローチに関しては,現在模型の構築を行っている最中である。このような状況を鑑みて,現在の進展状況を『おおむね順調に進展している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,高いスケールで超対称性が破れている場合であっても電弱スケールの微調整問題が解決される可能性が示された。このような模型にはしばしば暗黒物質候補があらわれる。例えば,Wボソンの超対称パートナーであるウィーノや,ヒッグス粒子の超対称パートナーのヒッグシーノが有力候補である。そこで本年度は,このような暗黒物質候補を探ることで高いスケールの超対称標準模型を間接的に検証する方法を研究する予定である。暗黒物質を検証する実験のなかでもとりわけ有望なのは,地上で暗黒物質と原子核との衝突事象をとらえることで暗黒物質を直接検出する,暗黒物質直接探索実験である。この実験に対して精度の良い理論予言をするためには,暗黒物質と核子との相互作用を高精度で計算する必要がある。そこで,この計算に必要な核子行列要素の最近の計算を包括的に検証したうえで現時点での理論誤差を明らかにし,摂動の高次の寄与を必要な精度まで系統的に取り入れ,理論予言の精密化を図る。加えて,中性子星の観測から間接的に暗黒物質を探る方法に関しても研究する。 トップダウン・アプローチについては,本年度は最小超対称標準模型(MSSM)にシングレット場を追加した模型(NMSSM)を取り上げて,電弱スケールの微調整問題をNMSSMの枠内で解決する可能性を調べることにする。特に,MSSMの場合,大統一スケールでウィーノ質量がグルイーノ質量と比較して数倍大きい時に電弱スケールの微調整問題が緩和されることが知られているが,NMSSMの場合にこのようなスペクトルがどのような帰結を与えるかを調べることにする。また,NMSSMにおけるフォーカス・ポイント・シナリオも同時に考察し,これら2つを電弱スケール微調整問題の観点から比較しその有望性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度初頭に研究打ち合わせのためアメリカ合衆国マサチューセッツ大学アマースト校に滞在することが決定したため,その旅費の補填に使用することにした。
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