研究課題
本研究は、インフレーション探索に向けた宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光觀測実験に用いる偏光変調器の極低温回転機構の開発を目的としている。本開発の鍵となるのは、回転機構の低発熱・低損失性である。本年度は、小口径(Φ~100mm)の小型試作機の作製とその動作試験を行った。まず、電磁界シミュレーションを用いた低損失駆動モーターの設計と作製、さらに、主要発熱源であるコイルのジュール熱低減のための高純度銅線の開発を行った。また、半波長板の位置を正確に検出するためレンズを導入した光学式エンコーダーの開発、及びエンコーダーの信号をフィードバックし回転を制御するモータードライバーの設計と作製も行った。これにより、発熱量1mW以下の駆動系モーターの開発に目処を付けることができた。次に、超電導磁気軸受に使用する磁気回路の開発を行った。物理的摩擦を無視するため超電導磁気軸受を採用しているが、更なる低発熱化のためには高磁場均一度の磁気回路が必須である。電磁界シミュレーションと実験による開発により、磁石とヨークを組み合わせ、磁場均一度1%以下のΦ=400mmで実現可能な磁気回路の開発に成功した。これにより、目標であるΦ400mmで1mW以下の発熱という目標に大きく近づいた。また、浮上式の偏光変調器を用いる際に問題となるリモート温度センサの開発も行った。磁石の磁場温度特性を用いることで、10K以下でも動作するコードレスかつ高精度な磁場式温度センサの作製に成功した。これらの小型試作機における開発と試験を基に、実験で使用可能な大口径Φ=400mmの試作機の設計と作製を順次進めている。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画していた小型試作機の開発項目はすべて目標達成に向けて目処を付けることができた。実際に、小型試作機を作製し極低温環境での安定動作に成功している。また、評価のための試験環境とソフトウェアの整備も完了することができた。大型試作機用の磁気回路も作製が完了し、単独評価試験を行っている。小型試作機の試験評価に一部若干の遅れはあるものの、重要な開発部分に関しては順調に進んでいる。次年度の大型試作機の作製・試験に向けて大きく前進した。以上の理由から、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
次年度は、これまで小型で開発を行った項目をすべて統合し、Φ=400mmの大型試作機の作製と試験に取り掛かる予定である。まずは、Φ=400mmの駆動モーター、超電導磁気軸受の各構成要素の単独試験を常温、液体窒素温度の低温で試験を行う。小型試作機では設計の段階から大型を基準としているため、大型化によるスケールの影響を最小化している。単独試験後、全ての構成要素を組み合わせ、低温での動作試験を行う。最終的には、開発した回転機構に半波長を搭載し、偏光変調器としての全システムでの発熱量の評価を行う。さらに、ミリ波検出器を用いた低温での光学試験を行うことを最終目標とする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
Y. Sakurai, T. Matsumura, T. Iida, H. Kanai, N. Katayama, H. Imada, H. Ohsaki, Y. Terao, T. Shimomura, H. Sugai, H. Kataza, R. Yamamoto, S. Utsunomiya
巻: 未定 ページ: 未定
10.1109/TASC.2018.2797302
Journal of Physics Conference Series
巻: 871 ページ: 012091
10.1088/1742-6596/871/1/012091
IEEE Transactions on Applied Superconductivity
巻: 27 ページ: 012011
10.1109/TASC.2017.2672688
巻: 871 ページ: 012094
10.1088/1742-6596/871/1/012094
IOP Conference Series: Materials Science and Engineering
巻: 278 ページ: 012011
10.1088/1757-899X/278/1/012011