研究課題
CTA(Cherenkov Telescope Array)は大気チェレンコフ望遠鏡(IACT)アレイを用いた次世代のガンマ線天文台計画である。本研究課題の目的は、CTAの電子・陽電子合算スペクトル及び陽電子成分の測定精度をシミュレーションによって定量評価することにある。IACTでの電子とガンマ線測定の本質的な違いは背景雑音(主に陽子)の取扱いにあり、電子測定の場合は陽子のシミュレーションデータを用いて残存雑音量を見積もる必要がある。このため、陽子シャワーを記述する相互作用モデルの精度は電子スペクトルの測定に大きな影響を与える。本研究課題の計画項目には「陽子シミュレーションのハドロン相互作用モデルの不定性の影響の調査」 が含まれており、2018年度はpost-LHCの相互作用モデル(EPOS-LHC, QGSJET-II-04, SIBYLL2.3c)を用いてこの課題に取り組んだ。計画立案時はTeV 領域ではモデル間に有意な差異はないであろうと予測していたが、実際にシミュレーションデータを生成し電磁シャワー様事象頻度の解析を行ったところ、異なるモデル間で2倍程度(100%)程度の差が見られた。電磁シャワー様の背景事象頻度の差異という点ではCTAの本来の科学目標であるガンマ線の感度推定にも大きい影響があるため、この結果を受けてこの調査はCTAの解析・シミュレーション(AS) Working Group(WG)のサブタスクとして定義され、ガンマ線検出感度に与える影響と空気シャワー中の生成粒子スペクトルの調査など当初の予定よりも深く掘り下げた解析を行った。これらの結果については、研究代表者を筆頭著者として5ヶ国のCTAメンバーとの共著として2019年9月の国際会議で発表予定であり、またCTA ASWGの論文としてまとめているところである。
2: おおむね順調に進展している
シミュレーションとそのデータ解析を行う人的資源(とそのスキルレベル)、シミュレーションデータ生成に必須である計算機資源の双方に大きな問題は発生しなかった。本課題の遂行には陽子のシミュレーションデータの大量生成が必要であるが、研究代表者の所属機関の計算機資源の活用に加え、EU-GRID上のデータへアクセスするための手続きを完了し、EU側の既存シミュレーションデータも活用することで研究の進捗はスピードアップされた。なお、研究実績の項目で述べたとおり、本来は研究計画中のサブ課題として定義していたハドロン相互作用モデル不定性の影響調査が予想外に重要な結果につながったこと、またCTA Consortium(構成員 1,400名以上)内部での研究課題の効率的な分担の必要性(重複の回避)を考慮し、ハドロン相互作用の検証を主要なテーマと位置付け、電子陽電子合算スペクトルについては(すでに一定の結果は得られて物理学会で報告しているが)優先順位を一旦下げて研究を進めた。
進捗状況の項目で述べたように、本来サブ課題であったハドロン相互作業モデルの不定性の影響の検証を主テーマと再定義し、CTAのガンマ線感度推定への影響という観点から論文をまとめる。また、上記の解析結果はCTAのみならず現存のIACT群(VERITAS、HESS, MAGIC)の実データを用いて、宇宙線の原子核組成の不定性の影響をほぼ受けない状態で相互作用モデルの検証・評価が可能であることを示唆しており、研究テーマとして今後の発展性も大きい。現在の電磁シャワー様事象頻度の解析に加え、より高い精度でモデル間差異の検出を可能にする解析手法を開発して実データに適用し、シミュレーションと実データの比較を行うことで、モデルを構築している研究者にフィードバックをかけることも可能性として考えられる。
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