研究課題/領域番号 |
17K14278
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
石渡 弘治 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40754271)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 素粒子論的宇宙論 / 宇宙線 |
研究実績の概要 |
観測的に明らかとなっている宇宙暗黒物質の存在は、素粒子標準理論が抱える困難のうちの一つである。暗黒物質は、素粒子標準理論が予言しない物質であるにもかかわらず、初期の宇宙から現在に至る宇宙進化の歴史において、非常に重要な役割を果たすことが明らかになっている。そのため暗黒物質の正体解明は、素粒子物理学、宇宙論、そして宇宙物理学にまたがる最重要課題である。このように広い分野にまたがる非常にインパクトの大きな研究課題であるため、多くの研究者が様々な方面から暗黒物質正体解明への取り組みがなされている。中でも近年発展が著しいのは、地下に巨大な検出装置を設置して暗黒物質と核子の散乱現象を捉える直接検出実験と、宇宙に存在する暗黒物質からのシグナルを宇宙線観測の中から見出そうとする間接検出実験である。本年度は特に後者の実験に着目し、その理論的側面からの研究、すなわち暗黒物質を起源とする宇宙線のシミュレーションを行った。この宇宙線シミュレーションには、暗黒物質から発生するガンマ線、陽子・反陽子、電子・陽電子、ニュートリノ・反ニュートリノのシミュレーション、それら生成された粒子が地球に届くまでの伝搬のシミュレーションから成る。後者のシミュレーションでは、我々の天の川銀河内と銀河外では伝搬プロセスが大きく異なるため、別々に行った。その結果、暗黒物質起源の宇宙線が持つスペクトルの特徴を網羅的に明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年の宇宙線観測の発展の特徴は、様々な種類の、かつ、広いエネルギー領域での観測データが次々と発表されている点にある。代表的な宇宙線粒子はガンマ線、陽子・反陽子、電子・陽電子、ニュートリノ・反ニュートリノである。これらの粒子について、Pierre Auger Observatory、Telescope Array, IceCube, ANITAなどの実験によって特に超高エネルギー領域の特徴が明らかになってきている。こうした超高エネルギー領域の宇宙線は銀河外に起源を持つとされる。しかし一方で銀河外には暗黒物質も存在するため、暗黒物質起源の宇宙線が我々に届いている可能性がある。そこでこうした宇宙線がどのように伝搬し、地球に届くのかを数値的にシミュレーションし、予言する研究を行った。このシミュレーションは計算・データともに膨大となることが判明し困難な状況であったが、前年度までに加速器数値シミュレーションで培った技術を応用することができ、効率的に進めることができた。その結果、暗黒物質を起源とする種々の宇宙線シグナルがどのような特徴を持つか包括的に示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに行った宇宙線のシミュレーションを、より一般的な暗黒物質模型に適用可能なように拡張する研究を行う。これには新たな形式のシミュレーションが必要であることがわかっており、まずそのシミュレーションに必要な情報を集める。そこから数値シミュレーションコードを作成・実行の上、得られた結果から順次データ解析を行う。それと同時に、太陽系近傍のパルサー天体を起源とする宇宙線の研究に着手する。パルサーを起源とする宇宙線は、地球に届く宇宙線陽電子の主要成分でると考えられているが、いまだ確証は得られていない。暗黒物質起源の宇宙線シグナルを捉えるためには、こうした天体起源の仮説を検証することも重要な課題である。そこで近年観測精度が向上しているいくつかの近傍パルサー観測データに着目し、様々な観点から精密に解析することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
宇宙線数値シミュレーション専用のコンピュータを購入する予定であったが、初めの数回のシミュレーションの試行により、現在所有する(他の用途ようの)コンピュータのみでおおよそ実行可能である見通しが立ったため、コンピュータ購入を中止した。また、年度末に予定していた研究会参加と研究打ち合わせに伴う出張が新型コロナウイルス発生の影響により全て中止されたため、そのために計上していた経費が余る結果となった。 次年度の使用計画としては、数値シミュレーションに必要とあれば新たにコンピュータを購入することを計画している。一方で出張に計上する予算に関しては、現在も続く新型コロナウイルス感染拡大防止対策の推移に大きな影響を受けるため、まだ確定できていない。様子を注視しながら計画を組み立てていくつもりである。
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