宇宙暗黒物質の正体解明は素粒子物理学・宇宙物理学・宇宙論にまたがる重要な研究課題の一つである。本研究では、素粒子標準理論においていまだに未知な部分の多いヒッグス粒子、そしてその拡張模型を含めたスカラーセクターに着眼し、宇宙暗黒物質の謎に迫る。研究計画前半では、素粒子標準理論のスカラーセクターを拡張した理論模型の解析並びに、その検証方法の提案を中心に行った。研究計画後半では、暗黒物質がスカラー粒子である可能性に着目し、暗黒物質探索のための有力実験として知られる直接探索実験と間接探索実験についての理論研究を行った。最終年度である2020年度は、前年度から集中的に行っていた宇宙線を用いた間接探索実験の研究をさらに進めた。ここで着目したのは矮小楕円銀河である。矮小楕円銀河は電磁波を発生する光源の少ない天体で、そのため暗黒物質を起源とする宇宙線をとらえるのに適した天体と言える。しかし一方で、光源が少ない分その大きさや密度といった特性を観測的に決定するのが困難な天体としても知られる。本研究では、理論とシミュレーションによる矮小楕円銀河形成とベイズの定理を適用した矮小楕円銀河特性の決定を行い、そこから予言される暗黒物質起源の宇宙線の理論予言を行った。その結果、暗黒物質の有力候補として知られる超対称粒子ウィーノが、計画されているCTA実験において観測可能であることを示した。(該当研究は現在査読中である。)具体的には、Segue 1、Ura Major II、Dracoなどの矮小楕円銀河を集中的に観測することで、ウィーノ暗黒物質からのガンマ線が優位に観測できることを予言した。ウィーノ暗黒物質の検証方法として銀河中心観測があるが、本研究の結果は、矮小楕円銀河観測がその補完的役割を担えることを示すものであり、宇宙線を用いた暗黒物質探索の観測精度向上を達成した。
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