研究課題/領域番号 |
17K14280
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
冨田 孝幸 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (70632975)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超高エネルギー宇宙線 / 大気蛍光 / 較正 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、UAV搭載型標準光源の装置開発を中心に行い、空中での光源位置の高精度測距の実現、光源発光-望遠鏡トリガー同期モジュールの開発および発光一様性の測定を行った。 開発機の測距は、2機のGPSモジュールを使用したRTK(リアルタイム キネマティック)測量法を採用した。RTKシステムにより通常のGPS測距精度よりも20倍以上も高精度な±10cmを実現した。一方で、大気蛍光望遠鏡での測定には、望遠鏡のトリガーロジックにより複数のピクセルで受光する必要がある。開発機に搭載する光源は直径20cm程度で感面上の像の大きさは数cmとなり、直径6cm程度のピクセルではトリガーがかからない可能性がある。そこで同期トリガーモジュールを開発した。望遠鏡の受信可能頻度とGPS測距タイミングより10PPSの同期モジュールをArduinoにて実現した。 これらの開発により、計測対象の望遠鏡の仕様のうち幾何光学特性の測定が可能となった。 夏期の観測では、計画に先んじて大気蛍光望遠鏡の幾何光学的特性の測定を試み、解析手法の開発を行った。テレスコープアレイ実験の大気蛍光望遠鏡は1ピクセルあたり1°の分解能であるが、ピクセルの境界は0.01°以下の極めて狭い幅で、かつ感度も感面の主要部に比べ低い点に着目することにより望遠鏡設置の方位角方向の精度が0.05°程度で確認できた。 しかしながら、10PPS同期モジュールの動作は、環境依存で1秒あたり400μ秒程度の誤差を持つことが判明した。望遠鏡のデータ取得の時間フレームは50μ秒であるため、データの取りこぼしが確認された。夏期観測の後、同期モジュールの再開発を推進している。 また、光源一様性は計測により全周囲で最大30%の角度依存性が確認されたが、発光毎のバラツキは5%程度であった。継続して角度依存性の小さい光源の開発を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、UAV搭載型標準光源の装置開発が中心とした計画であった。本機の主要な機能は『1:高精度な光源位置の測距』『2:発光-望遠鏡の同期トリガー』『3:一様発光な標準光源』である。『1』は、当初計画のとおりGPSを用いたRTK測量の採用により測距精度 ±10cmと目標数値を十分に実現している。『2』に関しては初期開発のArduinoによる発振器モジュールではGPS時間を基準として正確な10Hzに対して400μ秒の同期性能であり、測距のタイミングと同期することには成功している。しかし、望遠鏡のデータ取得フレームが50μ秒のため本機による発光の一部ではあるがデータを取りこぼしている。『3』は、発光毎のバラツキは小さく安定している光源を開発できているが、発光量の角度依存性は全周囲最大で30%であり仕様を満たしていない。 一方で、平成30年度に予定していた実地試験を夏期休暇の期間に先んじて行い、大気蛍光望遠鏡の幾何光学的な特性の測定試験を行うに至っている。上記の項目『2』に関しては、実地試験により発覚しており平成30年度でのフィードバックに有効である。また、望遠鏡の幾何光学的な特性の解析手法の開発に着手できており、方位角方向の解析に関しては目標精度を達成している。実地試験で、開発機が大気蛍光望遠鏡の特性計測および較正に対し有効であることが実証できた。 開発機に必要な機能を実装した点や先行して試験運用・解析手法の開発に着手していることから概ね順調に進展していると評価できる。先行した内容がある一方で、精度的には平成29年度の計画に積み残しもある。これらは平成30年度の開発にフィードバックをかけることで30年度末には計画以上の進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は『1:観測地での実証試験』『2:解析・シミュレーションによるデータ評価』『3:計測の再現性・観測器差・季節依存性の評価』を計画している。『2』解析ソフト・シミュレーターの開発は、実証試験のデータに基づいて推進する計画である。前述のとおり実証試験の一部は平成29年度に実施済みである。これにより解析手法・専用ソフトの開発は既に着手している。平成30年度の4月より、シミュレーターの開発にも着手する予定である。先行した実証試験により『3』の計測の再現性や望遠鏡器差の評価に必要な試験数も削減することが可能である。平成30年度も夏期に観測試験を行い、これらも達成予定である。 このように、平成29年度には開発と同時進行で実証試験を進め、開発機の不具合の検出に努めている。発光ー望遠鏡トリガーの同期モジュールや一様光源も試作済みであるが、制度面での修正が必要となっている。同期モジュールや光源の開発を4月より着手する予定である。同期モジュールにはuBlox製のGPS発振器が候補となっており、デモ機の借り受けなどの手配が進んでいる状況である。光源の試験は5月中に実際の観測と同条件でのフィールド計測を計画している。光源となる紫外線LEDの再選定・入手は完了している。入手量は使用量の5倍以上となる100ケとなっており、これらを個別に発光量を計測し光源に搭載するLEDを厳選することで発光量の角度依存性を低減化する計画である。 また、テレスコープアレイの望遠鏡サイトの1つはドローンの飛行には制限があることが発覚している。平成30年度内にユタ大学のテレスコープアレイ実験の共同研究者と共に現地機関への許可申請を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の開発では、同期モジュール等を回路から自己開発したため当初計画に比べ安価に作成できた。また実験地であるアメリカユタ州に滞在する際の宿泊施設に共同研究機関の施設を使用することにより滞在費を低減化することができた。 前述の同期モジュールは精度を向上するために再開発が必要であることから、平成30年度における同期モジュールの開発費として使用する。現状の試算では、次年度使用額である144,368円は、再開発費として全額使用する。その内訳はGPS発振器(2ケ)135,000円とLED発光回路との接続回路の電子素子など10,000円となっている。
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