研究課題/領域番号 |
17K14280
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
冨田 孝幸 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (70632975)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 較正技術 / 超高エネルギー宇宙線 / 望遠鏡 |
研究実績の概要 |
今年度の初頭は平成29年度までの試験データを解析し、これを元に最適なフライトコースの検討とドローンに搭載する高精度GPSの計測性能を確認する実験を行い、製造元の保証する±10cmの測定精度を確認した。加えて昨年度までの試験により標準光源の発光用の発振器と大気蛍光望遠鏡(FD)のデータ取得トリガー用の発振器にパルス発生時間にズレが生じる不具合と高精度GPSのデータ転送に不具合が確認されたので、前者を新規のエレクトロニクスを導入すること、後者を通信アンテナの再検討により改善した。後述の試験では、FDによるデータ取得率が70%から83%まで改善され、高精度GPSのデータ取得率は81%から98%まで改善した。また、ドローンのジンバル部に搭載するエレクトロニクスの配置の最適化を図り、現地での観測準備作業の改善にも取り組んだ。 8月から10月にかけてテレスコープアレイ実験サイトにて、本機を用いたFDの幾何光学特性の測定を試みた。そのフライト航程は目的毎に分けて実施した。航程と目的は『FDの視野の中心付近の飛行: FDの視野方向、焦点サイズ』『FDの視野の周辺部の飛行:FDの集光特性、収差』『隣接のFDに跨る飛行:FDの相対的な視野方向』となった。 11月以降は、本年度の試験データのうちFD視野中心付近を航行したデータを用いてFD毎の視野方向の解析にあたった。解析は高精度GPSによって得られた光源の位置を基準としてFDにて取得した受光量の重心の比較を行なった。GPSデータと受光重心位置の差とGPSデータとFD視野上における視野中心ピクセルからの開き角を評価比較することでFDの視野方向の情報が得られることが判明した。FDの視野方向が現行の較正値と異なる場合には、真値を示すGPSと較正値を使用するFDの受光重心では異なる位置を示すことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の当初計画は『1.観測地での実証試験』『2.解析ソフト・シミュレーターによる取得データ評価』『3.再現性・装置差の確認および季節依存性の確認』であり、追加で平成29年度からのフィードバックである『0.GPS測距データおよび望遠鏡受光データ』の欠損の低減である。 『0』は大きく2つの改善で完了している。GPSの測距データの欠損はRTK方式を採用したことで2つのGPSモジュールが常に通信する必要があり、この通信エラーによる欠損であることが判明した。よって通信アンテナのサイズと設置位置の変更により見通しを確保した。望遠鏡受光データの欠損は、タイミングモジュールをArduinoにしたことにより生じた同期の乱れをublox性の発振器へ変更することで改善した。 『1』は、8月から10月にかけてテレスコープアレイ実験サイトにて、本機を用いたFDの幾何光学特性の測定を試みた。既に、平成29年度に現地での予備試験を完了しており、そのフィードバックを受けた本年度は一部機能の実証試験となった。モジュールの航程はより最適化されたものとなっており、テレスコープアレイ実験における12機の望遠鏡のデータを取得できている。 『2』は、昨年度に先んじて進行した解析ツール開発が役立ち、望遠鏡の光学特性のいくつか(焦点サイズ、視野方向など)を定性的に確認するに至っており、定量化にも目処が立っている状態にある。その他にコマ収差などの解析も順次進んでいる。またシミュレータの開発も進んでおり、単一のイベントの数値計算は可能である。現在、計算の並列化可能なソフトへ改修中である。 『3』は、平成29年度データとの比較により、装置の再現性は確認しており十分な再現性を確保した装置であると判明した。一方で、冬季の観測は本年度12月から1月にかけて実施したが、風などの環境の影響により試験の実施数が限られた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、これまでに取得したデータ解析を中心に進行予定である。テレスコープアレイ実験(TA)サイトには試験を実施した望遠鏡サイト以外に2箇所の望遠鏡サイトを所有しているが、同サイトは飛行が制限される区域であるために、2017年度よりTA実験の共同研究機関であるユタ大学へ実施許可の申請の依頼を出している段階にある。申請の裁定によって2019年度も現地での試験を行うこととなる。また、解析に不足するデータが判明した際も試験を実施する。 解析に関しては、既に多くの光学特性の情報が得られており、視野方向および望遠鏡中心付近の集光スポットの大きさなど定量化が目前のパラメータも存在する。これらを進行すると同時に視野幅や収差などのパラメータに関しても解析を進める。シミュレータの並列化とシミュレーションのデータベース作成も進行中であり、取得データ解析後の評価に使用予定である。上記の結果が得られ次第、論文の執筆に移ることとなる。 一方で、望遠鏡の応答特性の精度高い解析には、望遠鏡の幾何光学特性の把握が必須であると判明している。よって、上記の幾何光学特性の解析を完了後に、望遠鏡の応答特性の解析に取り掛かる予定である。テレスコープアレイ実験の望遠鏡作成時の受光面不均一性の試験結果との比較により評価が可能である。 また、前述の試験未実施の望遠鏡サイトの航行が可能となれば、より有益な較正データがテレスコープアレイ実験へ提供可能となる。その際には2018年度と同様に長期間の実験サイトでの滞在が必要となる。2019度の前半において解析手順を確立することで対処可能と考えており、目下そのように進行中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の消耗品の購入価格が当初予定よりも低額であったため、残金が生じた。 2019年度の消耗品費として使用する。
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