本研究課題は、重力波直接検出・パルサータイミングを用いて宇宙ひも起源の重力波を探索するための体制を、理論・データ解析の両面において構築していくこ とを目標にしている。 本年は昨年度に引き続き、宇宙ひもからの重力波バーストを探索するための、データ解析コードの開発を進めた。これまでに開発したマッチドフィルター解析のコードを発展させ、2台の検出器間でイベントの到来時刻のタイミングが近いものを取り出すことができるようコードを改良した。これにより大量に検出される偽のイベント候補を大幅に減らすことができるようになった。 また、宇宙ひもの理論研究として、宇宙ひもネットワーク上に三叉構造が存在する場合に、キンクと呼ばれる特異点同士が衝突によって作られる背景重力波がどのような影響を受けるかを調べた。成果は論文としてまとめられ、現在は国際誌で査読中である。なお、昨年度に投稿していた、キンクが衝突によって作られる背景重力波を見積もった論文は、Physical Review D誌に出版された。さらに、宇宙ひも上のカスプと呼ばれる特異点から作られる背景重力波の見積もりを、3つの異なる宇宙ひもネットワークモデルの場合について、それぞれ計算し、比較した論文をJCAP誌に出版した。また、String Cloudと呼ばれる宇宙ひもが束状に重なった構造が、Higgs場の崩壊を早める触媒効果の役割を果たすシナリオを考え、現在の宇宙が存在するには、宇宙ひもの張力が小さくなくてはならず、現在の重力波の観測的上限と矛盾のないことを示した。この成果はPhysics Letter B誌に出版された。 さらに、パルサータイミングのデータを解析して宇宙ひも起源のバースト重力波を探索する研究をほぼ完成させた。すでに論文にまとめる作業を済ませ、現在論文の公表に向けて最終調整を行なっている。
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