研究課題/領域番号 |
17K14289
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
信川 正順 奈良教育大学, 理科教育講座, 准教授 (00612582)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | X線天文学 / 銀河系拡散X線 / 高温プラズマ / 超新星残骸 / 再結合優勢状態 / 低エネルギー宇宙線 |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまでに銀河系中心から銀河面の広い範囲で中性鉄輝線を観測し、その起源が低エネルギー宇宙線であることを突き止めてきた。宇宙線の生成源の有力候補は超新星残骸であるので、本年度は、特に本研究の主対象である低エネルギー宇宙線を生成、あるいは相互作用している超新星残骸について調査した。
いて座A East は銀河系中心に位置する超新星残骸である。過去のX線観測により強いX線放射が計測され、付随するプラズマが非常に高温 (最高温度 kT~6 keV) という報告があった(Koyama et al. 2007, PASJ, 59, S237)。しかしながら、銀河中心領域はバックグラウンド(銀河系拡散X線)も高いことから、先行研究では高エネルギー帯域は十分なデータ品質がなかった。そこで、我々はこれまでに得た銀河系拡散X線放射の知見から、バックグラウンドの精密評価、および高エネルギー帯域スペクトルの精密測定を行った。その結果、鉄の再結合連続X線と中性鉄輝線を発見した。これらの事実から、いて座A East の高温プラズマは再結合優勢過程にあり、プラズマ(電子)温度はそれほど高温ではないことがわかった。中製鉄輝線と共に、その起源の可能性として銀河中心ブラックホールいて座A* の過去のフレアを考察した。
昨年度に引き続き、超新星残骸 IC443 のX線データの調査を行った。その結果、IC443 の中央部および北西部に中性鉄輝線放射が塊状にあることを発見した。分子雲の分布と一致しており、分子雲中の鉄原子からの放射であると考えられる。その電離源として、低エネルギー宇宙線陽子が最も有力であると考察した。過去のガンマ線観測から得られた高エネルギー宇宙線の結果も合わせて、標準的な加速理論で説明できることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、銀河系拡散X線放射や超新星残骸の中性鉄輝線の起源として低エネルギー宇宙線の可能性を調査してきた。それは大局的に実施しており、本年度は個別天体についての空間分布の情報をもとに、加速機構の制限を実施した。狙い通りに、中性鉄輝線の空間構造と分子雲の比較をすることで加速理論と比較を行った。 研究計画全体に対しても、低エネルギー帯域における超新星残骸における加速機構の考察を実施しており、着実に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は超新星残骸における低エネルギー宇宙線探査を拡充することを目指し、再結合優勢過程にある複数の超新星残骸を調査する。データはすざく衛星のアーカイブを用いる。さらに、銀河系中心領域において、中性鉄輝線の点源の寄与を精密に評価するために、Chandra 衛星のアーカイブデータを用いて、系統的な調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より予算が少なく、物品の購入に別の予算をあてたため。残額は本年度の物品購入および旅費に使用する予定である。
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