研究課題/領域番号 |
17K14297
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
加瀬 竜太郎 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 助教 (10756406)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 宇宙論 / 重力理論 / 暗黒エネルギー / ブラックホール / ブラックホール摂動論 |
研究実績の概要 |
1998年に宇宙の後期加速膨張が発見された.この未知の現象の源を説明する試みの一つとして,重力理論を一般相対論から拡張し,大スケールでの重力理論の修正によって宇宙の後期加速膨張を説明しようという立場がある.これらの理論では多くの場合,重力場と非最小結合したスカラー場等の場を考える.本研究では,ベクトル場が重力場と結合したベクトル・テンソル型の修正重力理論に注目しており,平成29年度は以下のような成果を得た: (1) ベクトル・テンソル理論に基づく宇宙論模型の構築と,重力場に結合したベクトル場が可観測量に与える影響の解明 研究代表者はベクトル・テンソル理論に基づき宇宙論的に有効な理論模型の構築を行った.更に,宇宙論的摂動論を用いて解析を行い,この模型では実効重力定数が一般相対論の値よりも小さくなりうることを示した.スカラー場が重力場と結合したスカラー・テンソル理論では,一般的に実効重力定数は一般相対論の値よりも大きくなるため,赤方偏移空間歪み等のデータ等を用いて将来的に他の模型と区別が可能である. (2) ベクトル・テンソル理論におけるブラックホール解,及びその安定性の解明 一般相対論ではブラックホール脱毛定理が成り立ち,ブラックホールは質量,電荷,角運動量以外の情報を持つことができない.この定理はスカラー・テンソル理論に関しても多くの場合に成り立つ.一方で,ベクトル・テンソル理論の場合に脱毛定理がどの程度成り立つかは非自明である.研究代表者は,静的球対称時空においてベクトル場が非自明なプロファイルを持つ「毛の生えた」ブラックホール解が多数存在することを明らかにした.更に研究代表者はベクトル・テンソル理論の枠組みで初めて奇パリティ摂動の解析を行って安定性の一般的な条件を導き,上記のブラックホール解に適用することで,解析解・数値解が安定となる具体的な条件を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で説明した(1)の研究は,PHYSICAL REVIEW D誌に掲載された.また(2)の研究に関して,静的球対称時空での解析解及び数値解に関してまとめた論文がPHYSICAL REVIEW D誌とJOURNAL OF COSMOLOGY AND ASTROPARTICLE PHYSICS誌において掲載され,更にその奇パリティ摂動の研究成果はJOURNAL OF COSMOLOGY AND ASTROPARTICLE PHYSICS誌に掲載された.また,これら以外にも,ベクトル・テンソル理論においてベクトル場と物質場が直接結合した場合に,第五の力の遮蔽機構が正常に働き局所太陽系実験の結果と整合的であるか否かに関する研究も行い,その結果はPHYSICAL REVIEW Dに掲載されている.平成29年度は計5本の論文が出版され,これらの研究結果は来年度以降に計画している研究の土台となる.以上のことから,研究計画は順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
近年,中性子星連星の合体によって放出された重力波と,同時期に放出されたガンマ線の同時検出が行われ,この観測結果から重力波の伝搬速度が光速に非常に近いことが明らかになった.修正重力理論では一般的に重力波の伝搬速度は光速からずれうるため,一部の理論模型はこの観測結果によって棄却される.今後の研究の推進方策としては,ベクトル・テンソル理論の枠組みで重力波の伝搬速度が光速と等しい理論模型に関して以下の点を明らかにすることである: 1) 最新の観測データを用いた複合解析による理論模型の検証 宇宙背景放射,バリオン音響振動,Ia型超新星等の最新の観測データを用い,モンテカルロシミュレーションを行って理論模型が観測的に好まれるのか否かを明らかにする.また,ISW効果を介して模型のパラメータスペースにどのような制限が課せられるのかも議論する. 2) ベクトル・テンソル理論におけるブラックホール摂動(偶パリティ)に対する安定性の解析 平成29年度はベクトル・テンソル理論におけるブラックホール解の導出と,奇パリティ摂動に対する安定性の解析を行った.残る課題は偶パリティ摂動に関する解析を行い,奇パリティ摂動に対して安定だった模型が偶パリティ摂動に対しても安定なのか否かを精査することである.更にまた,重力波源となるブラックホール連星は通常角運動量を持っていることから,ベクトル・テンソル理論特有の「毛の生えた」ブラックホール解を将来観測で検証するために,カー解のように角運動量を持ったブラックホール解を探す必要がある. 平成30年度は上記二つの研究を柱として推進していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は多くの研究課題を同時並行で進めていたため,研究会や国際会議等で研究発表を行う時間が相対的に削られたために次年度使用額が生じた.平成30年度は,先に挙げた研究計画に沿って研究を推進するとともに,積極的に研究成果を発表しに国内外の研究会や国際会議等に参加することで次年度使用額を使用する.
|