宇宙の後期加速膨張という未知の現象は1998年に観測的に発見されたが,その加速膨張を引き起こす源はまだ明らかになっていない.これを説明しうる候補として,本研究課題では重力理論にベクトル場を導入して一般化したベクトル・テンソル理論に着目した研究を行った.本研究課題は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて補助期間延長を申請し,2020年度が最終年度となった.元々の最終年度であった2019年度までに当初予定していた研究計画の大部分は完了していたが,これに加えて2020年度は主にベクトル・テンソル理論における中性子星の自発的ベクトル化に関する研究を行った.スカラー場とテンソル場が結合したスカラー・テンソル理論の場合,低密度な天体では一般相対論的な解が安定解として存在し,一方で天体の中心密度が上がるにつれて一般相対論的な解が不安定となり,重力と結合したスカラー場が非自明に寄与する解が現れる自発的スカラー化という現象を引き起こす理論模型が先行研究により提唱されている.我々はベクトル・テンソル理論における中性子星について研究を行い,スカラーの場合と同様に自発的ベクトル化という現象が起こりうることを発見した.更に,自発的ベクトル化を起こした解の性質はスカラーの場合と大きく異なることを明らかにした.このような理論模型では,低密度領域で一般相対論的な解が成り立っていることから太陽系の局所重力実験の結果等を用いて一般相対論と比較することはできないが,中性子星のような高密度天体であれば一般相対論との違いが顕著に現れるため,将来の高精度な重力波観測を通じて理論模型に観測的な制限を課すことが可能となる.
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