研究課題/領域番号 |
17K14300
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
今村 慧 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別研究員(PD) (70783158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | レーザー分光 / 超流動ヘリウム / 核電磁モーメント |
研究実績の概要 |
当該申請研究は,近年加速器技術の向上により生成が可能となってきた中性子過剰二重魔法核126Sn(陽子数 Z=50, 中性子数 N=82)の近傍核である,Z=49の129,131In同位体を対象とした核モーメントの決定を通じ,この領域のおける魔法数の安定性を検証するものである。 そのために,申請者は申請者らが独自に開発を進めている超流動ヘリウム環境とレーザー分光法を組み合わせた核構造研究手法の適用を行う。当該手法では低温媒質である超流動ヘリウムを核子あたり数百 MeVに加速された原子核ビームの停止媒質として用いると共にレーザー分光を行うホストマトリクスとして活用する。超流動ヘリウム中に打ち込まれた原子核は,その停止過程において周囲のHe原子から電子をもらい原子の状態で停止される。停止原子に対して光ポンピング法によるスピン偏極生成,レーザー・マイクロ波二重共鳴法による磁気共鳴観測を行うことで,原子核と電子が相互作用することに起因する超微細構造間隔を測定し核電磁モーメント決定を行う。 当該手法のIn同位体適用において最も重要となるのは光ポンピング法を適用しスピン偏極原子を効率よく生成することである。先行研究では電子準位構造が単純なアルカリ様原子に対し超流動ヘリウム環境において60~90%の高い効率でスピン偏極生成が可能であることが知られているが,電子準位構造がより複雑であるIn同位体にこれを適用した例はそもそもない。In同位体に対する当該手法適用に向けて,当該年度はスピン偏極生成用光源の開発を行った。さらに,開発光源の性能評価を目的として,安定同位体Inをレーザーアブレーション法により超流動ヘリウム環境に導入し脱励起光の観測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,In同位体に対する手法適用を行うためにスピン偏極生成に必要となる光源の開発を行った。当該研究において必要となる光源,先行研究により知られている超流動ヘリウム中でのIn同位体の励起波長である370 nmの波長をもち,超流動ヘリウム環境においてTHzオーダーの線幅を持つ電子遷移スペクトルに対して高効率で励起を行うことが可能なものである。この様な広いスペクトル線幅は光源選択の点において高度なレーザー周波数制御技術を必要としないなどの実験系の簡易化につながるが,励起効率の高効率化には高強度のレーザーが必要となる。そのために,当該研究ではパルスレーザーの持つ高い尖頭値(典型的にMW/cm^2以上)を利用することで励起効率の向上を行う。 上述のレーザー光源を得るために,Z字型共振器のパルスTi:Saレーザーを開発した。Ti:Saレーザーは650-890 nmの広い領域において高強度のレーザー発振を得られることが知られている。基本波となる740 nmの光をパルスTi:Saレーザーにより発生させ,LBO結晶を用いて第二高調波発生を用いて波長変換を行うことで370 nmの光源を完成させた。最終的に得られたレーザー出力は,~ 0.5 MW/cm^2程度であり。大まかな見積もりでは,10^8 s^-1程度の励起レートを達成可能である。また,実際にこの開発光源を用いたレーザーアブレーション法により超流動ヘリウム内に導入されたIn原子の励起実験では,レーザー励起由来の発光観測にも成功している。次年度以降,スピン偏極生成実験へと移行を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにIn同位体に手法適用を行うためのパルスレーザー光源の開発を行った。さらに,開発光源の性能評価を目的として固体の安定同位体Inサンプルに対してレーザーアブレーション法を用いることで超流動ヘリウム内に導入し,レーザー励起による蛍光観測に成功している。当該年度は引き続き安定同位体Inを用いて,レーザーパワーや超流動ヘリウム温度などをパラメーターとして励起効率の依存性を確認しスピン偏極生成実験へと移行する予定である。 スピン偏極生成の確認後,まずは比較的容易に磁気共鳴の観測が可能であるレーザー・ラジオ波二重共鳴法を用いることでゼーマン準位間隔の測定に着手する。これにより到達偏極度,共鳴周波数の測定精度などについての評価を行う。 スピン偏極生成の確認が容易でないと判断された場合については,超流動ヘリウム環境におけるIn原子のスピン偏極緩和時間の評価を行うために,2台のパルスレーザーを用いたポンププローブ法を用いた実験などの検討も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中にレーザー開発に必要となるTi:Sa,LBOの両結晶並びに,今後の実験において必要となるデータ収集システムの購入に予算の大部分を使用した。 上記物品購入における支出が想定よりも多く,合わせて検討を行ていた超微細構造間隔測定の際に使用するマイクロ波関連の素子購入を中断したため次年度使用額が生じた。 翌年度請求の助成金と合わせて,当該年度に購入を予定した物品の再検討後に該当マイクロ波素子の購入に使用する予定である。
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