当該研究は,超流動ヘリウム中に核反応で生成される高エネルギーのイオンビームを打ち込み,減速・中性化・停止させることで,レーザー分光法による核電磁モーメント決定を目指している. 前年度までレーザーアブレーション法を利用し安定核種を超流動ヘリウム中に導入することで,装置開発,測定手法の確立を行ってきた.当該年度は核子当たり300 MeVのエネルギーで生成される不安定核イオンビームの停止効率を試験することを目的として,放射線医学総合研究所のHIMAC施設を利用し実験を行った.実験では核子当たり350 MeVに加速されたKrビームを12mm厚のBe標的に照射し,二次ビームとして生成される不安定核である質量数84のRbビームを用いた.なお,今回の実験では同施設の安全管理の都合上,液体ヘリウムは使用せず液体窒素中にRbビームを打ち込み,実験結果とシミュレーションの比較から,超流動ヘリウムを停止媒質として使用した場合の停止位置分布の推定を行った.液体窒素中の停止位置測定は,液体窒素の充填されたクライオスタット内に設定されたプラスチックシンチレーターと,クライオスタット内に入射するビームのエネルギーを調整する厚さ可変のAlエネルギー減衰板を使用して行った.Alエネルギー減衰板の厚みを変化させた際に,プラスチックシンチレーターに到達するイオン数が変化するが,この数の変化をプラスチックシンチレーターの発光強度の変化で観測し停止位置を決定した. 現在解析を進めているところではあるが,停止位置測定の結果から,このビームエネルギーでは,打ち込み深さ約6 mmで超流動ヘリウム中にイオンが停止することが判明した.さらにビームの横モードの推定結果と合わせて,10%程度の効率でビームを観測領域に停止させることが可能であると見積もっている.
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