超弦理論の有効理論に普遍的に現れるアクシオン場の素粒子現象論を研究することで、超弦理論特有の性質に注目した現象論的考察を行うことを目標としていた。今年度は、CP対称性の破れを担うアクシオン場の現象論を展開する上で重要なアクシオン場の崩壊定数を評価することを目標の一つとしていた。その際、弱結合極限のみならず、強結合極限におけるアクシオン場の崩壊定数の理解が本研究課題を行う上で重要であることを再認識した。そのため予定を変更し、IIB型超弦理論の強結合極限を記述するF理論に基づき、モジュライ・アクシオン場の期待値の決定手法を解析した。その結果、ミラー対称性の手法を用いた閉弦・開元モジュライ・アクシオン場の固定手法が明らかになった。強結合極限におけるアクシオン場の崩壊定数の理解に留まらず、F理論に基づく素粒子現象論及び初期宇宙論に対して予言を行う際の第一歩になると期待される。 弱結合極限においても、IIB型超弦理論に基づき、輻射補正を用いた新しいモジュライ決定機構を提案し、軽量アクシオン場が現れることを示した。軽量アクシオン場は、プランク衛星を初めとする宇宙論的観測に影響を与えるため、次年度に継続して研究を行う予定である。 また、アクシオン場と素粒子間の結合を明らかにするために、様々な余剰次元空間上のSO(32)ヘテロ型弦理論に基づき、素粒子標準模型の導出を行った。その際、ゲージ背景磁場は素粒子の世代数だけでなく、アクシオン場と素粒子間の結合を決定する重要な性質を持つことがわかった。
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