研究課題/領域番号 |
17K14307
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
川崎 真介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (20712235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超冷中性子 |
研究実績の概要 |
超冷中性子とは極めて運動エネルギーの小さな中性子のことで、物質容器中に閉じ込めておくことができる。その性質を利用し中性子電気双極子モーメントの探索、中性子寿命測定、重力実験など様々な物理実験に用いられる。超冷中性子は物質壁との衝突の際にある一定の割合で損失する。損失は物質の表面状態に依存する。 物質表面に存在する水素は表面に付着する水などの分子や金属内部に侵入する水素原子として存在する。付着分子の存在数は金属の表面粗さによる。粗い場合は表面積が大きくなるため水素の存在数も大きくなる。両者ともベーキングによって取り去ることが可能である。 平成30年度は超冷中性子保持容器を作成し、カナダTRIUMF研究所の超冷中性子源において超冷中性子損失率を測定した。容器は超冷中性子発生容器としての用途を想定しアルミニウム合金にニッケルめっきを施した。超冷中性子発生容器は高放射線下にさらされるため、放射線発熱の少ないアルミニウム合金を用い、その表面に中性子に対してポテンシャルの高いニッケルめっきを施した。上記のお通り、物質表面の水素含有量は表面粗さに依存するため、容器は複合電解研磨をした。 容器をベーキングなし、100度、150度の異なる条件でベーキングを行った際の超冷中性子の保持寿命を観測し、中性子の損失率を求めた。ベーキングを行わなかった場合に比べ、100度のベーキングでは7%、150度のベーキングでは19%の割合で中性子の損失率の減少が確認され、ベーキングによって中性子貯蔵容器の性能が向上することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超冷中性子の寿命測定は実験はカナダTRIUMF研究所に建設された超冷中性子源を行う。2017年春からの超冷中性子生成を予定していたが、2017年秋に超冷中性子生成が遅れ、本実験がビームタイムを得ることができなかった。2018年秋に初回のビームタイムを得てデータを取得することができたが、データの再現性チェックのためにさらに1度の超冷中性子の寿命測定実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
2018年に取得したデータの再現性チェックのためのデータ再取得のための実験を行う。ベーキング温度と水素含有量の定量的な関係性を四重極質量分析計を用いてアウトガスを測定することによって定量し、超冷中性子の損失率と関係づける。 実験によって見出した条件で超冷中性子発生容器を作成することで、超冷中性子源の性能向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年にカナダTRIUMF研究所でのUCN実験ができなかったため、これまでに2018年の一度のみUCNを用いた貯蔵実験を行っている。2019年度は取得したデータの再現性をチェックするための実験を計画している。実験はカナダTRIUMF研究所の超冷中性子源を用いて行うため、旅費を使用する。また、実験に必要な消耗品や実験機器の輸送費も持ちいる。
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