超冷中性子とは極めて運動エネルギーの小さな中性子のことで、物質容器中に閉じ込めておくことができる。その性質を利用し中性子電 双極子モーメントの探索実験、中性子寿命測定、重力相互作用の検証等、様々な基礎物理実験に用いられる。超冷中性子は物質壁との衝突の際にある一定の割合で損失する。損失は物質の表面 態に依存する。物質表面に存在する水素は表面に付着する水などの分子や金属 部に侵入する水素原子として存在する。付着分子の存在は金属の表面粗さによる。粗い場合は表面積が大きくなるため水素の存在も大きくなる。両者とも一般にベーキングによって取り去ることが可能である。 令和元年には平成30年に取得したデータの詳細解析を行った。ベーキングなし、100度、150度の異なる条件で行った超冷中性子保持実験のデータを詳細に確認したところ、それぞれの条件で67.2(1.0)秒、75.4(1.4)秒、76.1(1.2)秒の寿命を持って超冷中性子が損失していることが分かった(括弧内は誤差を表す)。これを超冷中性子の損失率に焼き直すとベーキングなしに比べ100度、150度でのベーキングを行った場合の中性子の損失率が12%減少することが分かった。100度、150度のベーキング温度の違いによる損失率は誤差の範囲で一致する。 この結果は様々な超冷中性子実験に応用可能である。超冷中性子源内の超冷中性子発生容器にこの結果を応用することにより、超冷中性子源の性能を12%向上させることが可能であることが分かった。
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