研究課題/領域番号 |
17K14309
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
大木 洋 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (50596939)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 格子ゲージ理論 / 素粒子論 / 初期宇宙 / 重力波 |
研究実績の概要 |
宇宙の起源の謎を解明するための重要な事象として初期宇宙の電弱相転移現象の解明が挙げられる。特にある種の素粒子標準模型を超えた新物理模型では未知の強い一次相転移が起こる可能性が示唆されており、そうした強い宇宙論的一次相転移が生じた場合、真空の相転移に伴う真空泡生成によって重力波が生成されると考えられる。そのような背景重力波を捉えようとする観測実験が現在計画中であり、標準模型を超えた未知の物理の探索とその重力波シグナルの理論的予測を行うことが重要である。本年度は、強結合ゲージ理論によって電弱相転移が動的に引き起こされる複合ヒッグス模型の一つであるウォーキングテクニカラー模型に着目し、その低エネルギー有効理論の構築、及びその宇宙論的相転移の性質を研究した。その結果、初期宇宙において強い一次相転移を引き起こし、将来の実験において観測可能な重力波シグナルを誘導する可能性があることが分かった。このような未知のゲージ理論を用いた研究は、元々進めてきた非摂動効果を含めた定量的な計算法である格子ゲージ理論における我々の先行研究の成果に基づくものであり、今後も様々な素粒子現象論への応用が期待される。また並行して強い相互作用の源である量子色力学(格子QCD)に応用する研究も同時に進めており、特に核子を用いた電磁双極子能率(EDM)はCP対称性の破れを示す重要な物理現象であり、その理論的解明が重要である。本年度は核子のEDMと密接に関連する重要な物理量である核子のテンソル電荷に着目し、そのストレンジクォークの寄与が本質的であるクォーク非連結ダイアグラムの効果も含めた数値計算を、厳密な格子上のカイラル対称性を保つオーバーラップフェルミオンを用いた格子QCDで行った。またQCDのθパラメータによる核子EDMの格子QCD計算も進めており、現実的なクォーク質量での高精度決定を行う研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画であった、スーパーコンピュータを用いたCPを破る演算子であるθ真空等による核子EDMの数値計算は概ね終了しており、その準備段階の成果は既に幾つかの国際会議で発表を行っている。今後は外部電場法を用いたエネルギー変位の応答による方法も用いた計算とその解析を行う必要があるが、次年度のスーパーコンピュータ使用申請も既に受理されたおり、引き続き大規模数値計算を進める事が準備出来ている状況である。また核子のテンソル電荷の格子計算も完了し、その研究成果は学術論文として受理されている。引き続きニュートリノと核子構造への研究へと進展させる予定であり、順調に進展している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られたQCDのθパラメータによる核子EDMの解析を進め、様々な誤差縮減の方法を数値的、解析的に行う。特に、θパラメータを含めた核子の物理では、トポロジカル電荷密度の効果に関する遠方での振る舞いに着目する事で、空間的時間的なトポロジカル電荷密度の依存性を踏まえた最適化法を模索する事で、誤差縮減の可能性を模索する。 またニュートリノと核子との散乱断面積を調べる新たな格子QCD計算手法の開発を行っていく。この研究では核子のカレント相互作用を複雑に取り入れる必要があるため、その理論計算法の確立と数値計算プログラムへの実装を行い、ニュートリノ物理に関連する擬軸性カレントによる核子崩壊のQCDの新たな非摂動的計算手法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究拠点が申請した当初の理化学研究所Brookhaven National Laboratoryから国内の他の研究機関に移った事で、設備や国際研究会、国内研究会への参加、出席に伴う使用額等が変更になったため、次年度での旅費使用や設備備品等購入のための使用を計画している。
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