研究課題/領域番号 |
17K14315
|
研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
武内 陽子 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第一部電気電子技術グループ, 研究員 (40780987)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ガス電子増幅フォイル / 放電抑制 / ミューオン / 非破壊検査機 |
研究実績の概要 |
本研究では、宇宙から降り注ぐミューオンを用いた非破壊検査技術に着目し、高位置分解能かつリアルタイム測定ができる小型ミューオン検出器として、ガス電子増幅フォイル(GEM)を用いた3次元飛跡取得システムを開発する。この検出器の要でもあるGEMは厚み100μmの絶縁体シートを電極で挟み、表面に200μmの間隔で100μmの無数の貫通孔を開けた構造をしている。GEM両電極間に一定の電圧を印加すると、一つ一つの孔で電子増幅が起きる。これを利用して、GEMの上部でミューオンの飛跡上にできた微量な電子雲の形を崩さずに2次元で増幅し、読出しピクセルと各ピクセルに到達した時間差の3次元情報を精度良く観測すれば、ミューオンの飛来方向が特定できる。そして観測した飛来方向を積算することで、最終的にレントゲンのような非破壊画像を取得することが可能である。 しかし、GEMは構造的に微細加工かつ高電圧を印加するため、従来のGEMでは絶縁体であるポリイミドなどの有機物が放電によって炭化し、絶縁破壊による故障を起こす可能性があった。本研究の検出器は長時間の運用中に故障を起こしてはならないため、高い信頼性が求められる。私は放電によるGEMの破壊を防ぐために、我々が数年前から開発を行っている絶縁体を無機物のセラミックスにしたLTCC-GEMを搭載することにした。 初年度の平成29年度の研究目標は、現在異常放電が続くLTCC-GEMのさらなる改良を目指した。問題となっていた孔壁面に付いた金属ゴミを取り除くため、エッチング時間を長くし、その際溶出した電極をめっき処理で補う新しい製造プロセスを取り入れた。その結果、運用電圧での放電回数を劇的に抑えることができるようになり、LTCC-GEMの信頼性を上げることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、要となるガス電子増幅フォイル(GEM)の高信頼化を目指し、絶縁破壊や放電が起こりにくいGEMの開発を行った。協力研究者である小宮氏が開発した低温焼結セラミックス(LTCC)を絶縁体に用いたLTCC-GEMは、無機物のセラミックスを用いているため放電による絶縁破壊が起こらない。しかし、ポンチ加工プロセスの際に金属ゴミが孔内部に入り込み、放電が起こりやすくなっていたために異常放電が連続して測定が出来なくなってしまう問題があった。それを解決するために孔洗浄のエッチングを強化し、その際に溶出した電極面を後からめっきで補う製造プロセスを取り入れた。 結果、1cm角のテストサンプルでは、9時間の長時間運用で電子増幅率の変動は1%以内であり、従来のGEMと同等かそれ以上の能力を有していた。一番の問題である放電に関して、9時間の運用で計5回程度しか起こらず、当初の目標どおり放電数を劇的に抑制することができた。以上のことから、初年度の目標を達成できたといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
【プロトタイプ機の製作・開発】 当初の計画通りに、宇宙線ミューオン検出器のプロトタイプを設計し、製作する。同時に検討していたデータ処理方法なども動作ができるように準備を進める。
【封入ガスや印加電場などの運用パラメータの検討】 ミューオンを効率良く検出するために、各種運用パラメータの検討が必要である。具体的にはミューオンとガスの相互作用の確率から、最適なガス種とその圧力に見当をつけ、実際にプロトタイプ機を用いて評価を行う。同様に、ミューオンの飛跡情報を持つ電子雲の形状を読み出しピクセルへと移動させる印加電場も、検出効率との関係を調査し、放電が起こらずに安定して運用できる電場パラメータを決定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究時間の効率化を図るため、2年目に購入予定の安価だがシステム立上げを全て自分で行う多チャンネル読出し装置の購入をやめ、高価だがすぐに使える完成された多チャンネル読出し装置を購入するために予算を補填した。その点以外に使用計画の変更は特にない。
|