本研究課題は、磁性体のスピントロニクス応用に際して重要となる「磁気構造の操作・検出」を飛躍的に効率化させるべく、トポロジカル絶縁体・ワイル半金属等のトポロジカル物質で磁気構造が示す性質を、理論面から理解することを目標としたものである。 初年度・2年度目は、実験的にも物性探索が行われている磁性ワイル半金属に着目し、磁気構造の持つ電気的特性に関して現象論と数値計算の両面から解析を行った。特に、磁壁においては電荷が局在し、その電荷を用いて磁気構造を電気的に駆動できることを提案した。理論面での興味としては、これらの性質が相対論的場の理論における「カイラル磁場」の概念に基づいて理解できることを明らかにした。 最終年度となる2019年度は、これまで扱ってきた(準)静的な磁化の理論から発展させ、磁化のダイナミクスがトポロジカル電子系に及ぼす効果を扱った。具体的な問題として、2次元の量子スピンホール絶縁体や3次元のトポロジカルディラック半金属など、スピン依存した伝導方向を示す端状態をもつ電子系に着目し、これらの端状態に対して磁化ダイナミクスが及ぼす効果を扱った。通常の磁性体-金属の接合系では金属中にスピン流が注入されるスピンポンピング効果が広く知られている一方で、これらの端状態を持つ電子系においては端状態にスピンが注入され、それが端電流に変換される「スピン-電荷変換」が実現されうることを提案した。磁化との結合により端状態が絶縁的となるため、スピン-電荷変換の変換効率は通常の2次元界面と比較して100倍以上高効率となる可能性を明らかにした。この研究成果を記した論文は、"Physical Review Research"誌への掲載が決定している。 また、前年度までに行った磁性ワイル半金属の磁気構造に関する一連の研究成果を解説記事としてまとめ、"Annalen der Physik"誌に掲載された。
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