研究課題
ガラスの物理における未解決問題の一つとして、ガラス形成物質においてテラヘルツ帯に普遍的に現れるボゾンピークと呼ばれる励起がある。この数十年にわたり、実験・理論両面で多くの研究がなされてきたが、我々はテラヘルツ時間領域分光によってボゾンピークが明瞭に検出できることを世界に先駆けて示すことに成功している。近年進展が活発なテラヘルツ光技術を用いたボゾンピーク研究は、ガラスに関する基礎学理の大きな進展およびテラヘルツ光の新たな応用が期待できる。平成29年度は学術上重要な位置を占めるシリカガラスに対するテラヘルツ分光研究を初め、国内外の研究機関・企業と多くの共同研究を開始した。特に、イタリア、ポーランドを初めとした海外の研究グループと開始しているガラスセラミクスに関するボゾンピーク研究は、ガラスの結晶化度をテラヘルツ光で決定できる可能性を持ち、応用上の需要が今後見込まれる。これに関し、「ボゾンピークの測定値に基づいて、物質の結晶化度及び/又は密度を測定する方法及び測定装置」の特許を出願中であり(特願2017-227977)、本研究の目的の一つである「ガラスの新評価法の提案」の礎を作ることができた。また、本研究における主な対象であるボゾンピークに加え、従来見過ごされてきた、高分子ガラスに普遍的に現れると考えられるフラクタルダイナミクスのテラヘルツ光検出に関し、光とフラクトン励起に関する理論的考察の提案を行っている最中である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度は、既に開始していた国内の共同研究者とのシリカガラスに関する研究を皮切りに、複数の企業及び研究機関との共同研究のネットワークを拡げ、先端的機能性ガラスのボゾンピークの研究を開始することができている。さらに、ポーランドで開催された国際会議において招待講演依頼を受けたことをきっかけに、イタリアおよびポーランドのガラスセラミクスの研究グループと知り合い、ボゾンピーク評価の基礎と応用を目的として、共同研究に発展している。また、ポーランドの他の研究グループからも共同研究の申し出を頂き、高分子ガラスに対する研究の進展もある。その他も多くの共同研究依頼を受けており、当初予想していた研究展開を凌ぐ拡がりを見せている。また、テラヘルツ光によるボゾンピーク評価の新提案として、「ボゾンピークの測定値に基づいて、物質の結晶化度及び/又は密度を測定する方法及び測定装置」の特許を出願中であり(特願2017-227977)、本研究の目的の一つの礎を築くことに成功した。これは、赤外(テラヘルツ)分光における吸収係数の絶対値決定が可能であることを利用した、結晶化度の決定方法の新しい提案である。また、本研究における主目的であるボゾンピーク分光に加え、従来見逃されてきた、高分子ガラスに普遍的に現れると考えられるフラクタルダイナミクスのテラヘルツ光検出に関し、テラヘルツ分光による検出に関する理論的提案を行っている最中である。この提案は当初の予定よりも大幅にガラスのテラヘルツ帯ダイナミクスの理解を進展させるものであると考えており、今後、ガラス・高分子・テラヘルツ業界において、本提案内容が普及していくことが期待される。
平成30年度は、前年度に得た成果の論文発表、先端的機能性ガラスの分光評価、特許提案内容の実用化に向けた分光研究、そして、特に海外との共同研究ネットワークをさらに拡げ、当研究室をテラヘルツ分光によるボゾンピーク研究の中心地となるよう積極的に成果発表を行うことに努める。特に、本年度は日本においてテラヘルツ技術に関する最大の国際会議であるIRMMW-THz2018(名古屋)および、ガラスの国際会議ICG2018(横浜)が開催されるため、ネットワークを拡げる良い機会となる。特に後者のICG2018においては、イタリアの共同研究者らが当研究室を訪問し、今後の共同研究を進展させるために議論を行う予定である。
他の助成金獲得および総合的な研究費の使用状況により、当該助成金が生じた。これを次年度の国際会議の参加費に使用する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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