研究課題
本研究では、レーザースピン角度分解光電子分光を利用して、スピン軌道相互作用が創り出す固体表面におけるスピン分裂バンドに注目して、軌道とスピンに依存したキャリアダイナミクスの解明を目指す。本年度は、(1)トポロジカル絶縁体ビスマスセレナイドにおける表面状態の光電子スピン干渉効果、(2) 量子井戸薄膜銀(111) の上にビスマス薄膜を成長させた表面合金のスピン軌道結合、(3) キャリアダイナミクスに加えて、スピンのダイナミクスまで分離して直接観測を可能にするフェムト秒領域のパルスレーザーを組み合わせたポンププローブスピン角度分解光電子分光を装置の開発を行った。(1)(2) では、レーザースピン分解光電子分光の偏光可変による軌道選択性を充分に発揮させることにより、軌道成分、さらにスピンまで分離して直接観測する事でスピン分裂バンドを構成する基底波動関数の完全決定を行った。この成果の一部は国内外幾つかの学会で報告して、すでに国際雑誌に掲載されている。また、この研究成果により、レーザースピン分解光電子分光を物質開発・物性研究の汎用的なツールとして確立しただけでなく、新たな光スピン制御法を示した。(3) 導入した最新型のフェムト秒レーザーは、位置安定性とカラーセンターに起因する真空窓の透過率の減少が問題化されていた。本研究により、この二つの問題点を完全に解決することに成功した。この結果により、ポンププローブスピン角度分解光電子分光が可能となった。この成果は、国際雑誌に投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度ではスピン偏極表面電子バンドから放出される光電子のスピン干渉効果の実験データの解釈について理論家と議論した。当初予定していた、波数依存性については完全には理解できていないが、直線偏光・円偏光で放出される光電子スピンの向きを三次元空間で合わせて説明することに成功した。波数依存性については、さらに複雑な光電子放出過程まで取り入れて考慮することが必要だと考えている。一方、量子井戸薄膜 Ag(111) の上に成長した Bi 薄膜に関しては、試料作成に成功しており、実験データも期待通りのペースで出てきている。成果一部も、国際雑誌に掲載された。ポンププローブ用のレーザービームラインも製作に入っており、順調に進展している。
研究2年目はポンププローブスピン分解光電子分光の装置開発に集中する。1年目で示した軌道選択スピン分解によるスピン結合状態を発展させて、レーザーの偏光可変性、時間分解まで行うことで、従来のスピン分解光電子分光では不可能であったスピンダイナミクス観測を目指す。この測定を実現させるために、レーザービームラインの構築、装置の移動、光学系のアライメント、性能評価を順に行っていく。特に、測定の自由度がふえるため操作が複雑化する事が予想されるため、測定能力を最大限に活かせる自動制御測定システムを構築する。
自動制御測定システムを構築する上での経費が必要である。液体Heは低温での測定を行うための必要経費である。ポンププローブスピン分解光電子分光のための光学系まわりの経費が必要である。国内・国外での研究発表のために、旅費と論文別刷代が必要である。また、パルス幅をモニターするオートコリレーターが必要である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=2515
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