本研究は1ピコ秒未満の超短パルスレーザーが物体に照射されたとき、パルスの持つ運動量が物体に移行する過程の観測を目的としたものである。とりわけ、光が物質に運動量を移行可能な時間はそのパルス幅以内にとどまることから、100フェムト秒程度の超短パルスの運動量はその相互作用時間内には物体の重心系全体に行き渡らず、照射箇所の部分系に局在することになる。本研究では当初この超短パルスによる運動量移行過程を光周波数コムの周波数シフトの形での測定を試みたが、運動量移行によりドップラーシフトした光周波数コムの縦モード群と入射した光の縦モードの重畳により期待するS/N比での測定が困難であることが判明したため、手法を修正し高強度の超短パルスレーザー照射のもつ運動量によりもたらされた形状変化を精密に測定することにより運動量移行の測定を試みた。これを実現するため高強度超短パルス照射前後の3次元形状を比較可能な実験系を構築し、垂直方向に3ナノメートル以下の精度を実現した。本研究により構築された実験系を用いることで超短パルスによる形状変化において光の運動量の寄与の評価が可能になるとともに、手法変更の副産物として鏡面以外の構造についても測定が可能になった。とりわけ複数パルスのレーザー照射に伴う形状変化がランジュバン方程式で記述可能であることを見出し、物質の力学的な性質の及ぼすが光と物質の相互作用に与える影響を定量化することに成功した。
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