昨年度に自作した本研究の要となる回折限界のレーザー走査顕微システムへ単一光子検出の光学系を導入し、制御および測定のプログラムを構築した。これにより、本研究の特色であり、ナノ領域の光と物質の相互作用を捉えるために活用する光の強度相関測定が可能となり、実験システムが完成した。 完成したシステムを用いて、ガラス基板上に分散させた量子ドットのレーザー励起発光を単一光子カウントにより2次元マッピングを行った。ここで、光子カウント数の積算には時間がかかることから、これまでに気づいていなかった長時間でのドリフトが発覚した。この定点観測への障害となるドリフトは、わずかな温度変化が原因であると突き止め、顕微鏡を断熱することで解消した。 次に、単一の量子ドット観察へ向け、昨年度に確立したスピンコートによる面数密度制御を効率的に実施するため、回転数の4速切替制御可能なスピンコーターを自作した。これにより、単一の量子ドットに特有な発光の明滅現象を捉えることに成功した。しかし、全く予期していなかった光子カウント数のバックグラウンドノイズがシグナルの10倍も存在することがわかった。最終的に、この謎のノイズはガラス基板やレンズから発せられていることを明らかにし、基板をマイカへ変更し光学系も改良することで、ノイズを10分の1まで低減することができた。 さらに、明瞭な強度相関の観察のため、より小さなスポットが得られ、より低強度で励起可能な短波長へと励起光を変更した。これには光学系の大幅な修正が必要であるが、ここまでの本研究で培われた知見から、即座に回折限界のレーザー顕微鏡が構築できた。また自作のスピンコーターにより、面数密度制御も効率的に可能となっていることから、目的となる独自のナノ領域の光と物質の相互作用の抽出への研究基盤は充分に整った。この基盤をもとにして、実験的観測へ向けた研究を引き続き推進する。
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