研究実績の概要 |
本研究では最近、AlO4四面体を基本とする間接型強誘電体Ba1-xSrxAl2O4において、AlO4骨格構造が絶対零度付近まで低エネルギー格子振動を続ける特殊な揺らぎ状態を見出した。さらに、高Sr濃度の領域においては低温でこの揺らぎの大きさが増大し、新規量子臨界性が発現する可能性をこれまで示してきた。本年度は、本系におけるこの特異的なフォノンの性質を探るため、Ba1-xSrxAl2O4単結晶を育成し、放射光を用いて単結晶X線熱散漫散乱の観測を行った。 x=0~0.4までの、Sr濃度の異なる単結晶の育成を行い、それぞれに対しX線熱散漫散乱の温度依存性を観測したところ、常誘電-強誘電相境界付近の組成x=0.07では、第一原理計算から予想されていたM, K, Δの構造不安定性が全て発現し、これら3つに起因する超格子反射が全て観測されることを見出した。これまで実験的に観測されていたのはM, K点での構造不安定性のみであり、また通常いずれか1つの不安定性が選ばれて構造相転移に至る。つまり、超格子反射を生じる。従って、本結果は予想外のものであったが、この物質の常誘電-強誘電相境界が、通常の強誘電体とは異なる性質を持つことを改めて示唆している。 一方で、xが増加すると、これらの超格子反射は消え、M, K点での散漫散乱のみが観測された。このM, K点の散漫散乱は、温度の低下に伴って通常の相転移のように一時は強度が増大しソフト化傾向を示すが、構造相転移を起こすことなく強度を弱め、200 K以下ではほとんど温度依存せず残存することが新たに分かった。この結果はまさに、本系の構造不安定性が低温まで解消されることなく残ることを意味する。今後、この揺らぎが動的なものか、あるいは静的なものなのかを明らかにしていく必要がある。
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