研究実績の概要 |
本研究では充填トリジマイト型酸化物BaAl2O4の構造相転移と、その抑制によって生じる「構造揺らぎ」に注目して研究を行ってきた。この物質では、ソフトモード(低エネルギーフォノン)の凝縮を伴う構造相転移が、元素置換によって抑制された結果、構造不安定性が解消されない構造的に揺らいだ状態が、広い組成範囲で出現する。放射光粉末X線回折による構造解析の結果からは、これらの組成では少なくとも15 Kまで構造相転移が起こらない。すなわち、ソフトモードの秩序化が絶対零度付近まで抑制された状態となっている。H29年度は、本系におけるこれらの構造揺らぎを解明するため、Ba1-xSrxAl2O4単結晶の育成と放射光X線回折を行った。その結果、構造揺らぎに起因する熱散漫散乱の観測と、その温度依存性の詳細な評価に成功した。また、常誘電-強誘電相境界付近の組成において、第一原理計算から予想されていたM, K, Δの構造不安定性が全て発現し、これら3つに起因する超格子反射が全て観測されることを実験的に見出した。 H30年度は、上記の放射光X線熱散漫散乱の解析と、構造揺らぎがマクロ物性に与える影響を調べた。その結果、常誘電-強誘電相境界の外側の組成(x=0.2以上)では、2.5 K以下の低温で、デバイのT3則から外れる過剰な格子比熱が観測されることを見出した。この過剰比熱は、非晶質固体で見られるものとよく似ている。熱散漫散乱の解析から、これらの組成では、ソフトモードの凝縮が抑制された結果、短距離相関が形成されていることがわかり、本物質で見られた過剰な比熱が、この短距離相関に起因していることが明らかになった。
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