本研究は、角度分解光電子分光(ARPES)から得られる電子状態と電気伝導特性の両観点から、遷移金属酸化物表面・極薄膜における2次元電子状態に働く多体間相互作用の起源を明らかにすることを目的としている。そのため、K吸着によりa-TiO2 (001)表面近傍への電子ドープを行い、形成された2次元電子状態の電子ドープ量依存性をARPES測定を用いて明らかにする研究を行った。本年度は詳細な光電子分光スペクトル解析の結果、下記の3点を明らかにした。 1)内殻スペクトル解析の結果、a-TiO2試料を低温に冷やしながらK吸着させることで、吸着したKがa-TiO2の内部に潜らず試料表面からの電子ドープが可能であることを見出した。このことで、酸化物表面における良く定義された電子ドープ手法を確立した。 2)ARPESスペクトル解析の結果、電子ドープにより形成された2次元電子状態はa-TiO2表面から2 nm以内に閉じ込められていることを明らかにした。 3)電子ドープに伴い2次元電子状態に働く電子格子相互作用が弱まることを明らかにした。さらに、この2次元電子状態に見られるkink構造の主な起源であるLOフォノンとの相互作用が表面とバルクで異なることを見出した。 これらa-TiO2 (001)表面の2次元電子状態における研究成果がPhys. Rev. B誌に論文として掲載された。さらに、本研究で確立した酸化物試料表面への電子ドープ技術を応用することで、VO2薄膜におけるキャリア誘起金属絶縁体転移の発現機構を明らかにした。
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