研究課題/領域番号 |
17K14330
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 倫啓 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20776413)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / ディラックコーン / 有機導体 / 強相関 / 自発的質量獲得機構 / エキシトニック不安定性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、圧力と磁場によって電子相関を自在に制御できる有機導体のディラック電子系で、準粒子励起と相関の磁気的特性を検証し、電子相図の全貌を解明することである。そのために、層状分子性固体a-(ET)2I3において核磁気共鳴(NMR)測定を駆使し、ディラックコーン内とコーン間での励起と相関を精査する。本年度は伝導面平行な磁場下における帯磁率、スピン格子緩和率の測定に加え、高精度な理論モデルに基づく理論解析を重点的に行った。 まずこの系では、単純な金属で成立するコリンガ則が劇的に破綻することが分かった。コリンガ則からのズレの程度を表すコリンガ比は、同則が破綻する従来の強相関物質と比較して2桁大きく、前例のない巨大さである。協力関係にある名古屋大の小林准教授と進めた理論解析を通じ、長距離クーロン相互作用を考慮したくりこみ群に基づくモデル計算によって本現象が見事に再現できることを実証した。この現象は、銅酸化物系でよく知られる反強磁性揺らぎに由来したコリンガ比の増大とは対照的に、コーン内励起に対応する一様帯磁率のみが劇的に抑制される、ディラック電子系固有の全く新しい相関効果である。この新しいメカニズム解明に繋がる重要な実験例を世界で初めて報告できた点で、本成果の意義は極めて大きい。 次に緩和率の挙動を複数の試料で検証し、その多くでヘリウム温度域に緩和率の急増現象が現れることを確認した。線形化ギャップ方程式を用いた理論解析の結果、長距離クーロン相互作用によるエキシトニック不安定性によって、横スピン、コーン間での電子ホール励起が急激に発達し、緩和率の増大が生じることを突き止めた。電子間での強い相互作用による自発的質量獲得機構としてのエキシトン転移の前兆を、世界に先駆けて捉えた画期的な成果と言える。 これらの成果は、本年度に総合誌のレター論文や国際会議で発表し、内外で高い評価を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、全容解明を目指すa-(ET)2I3電子相図の理解において特に重要になる理論モデルの検討とパラメタの絞込み、およびそれらの妥当性検証のための試料依存性の評価と磁場依存性の検証を行った。この結果、本物質のディラック電子系における励起特性を記述するための最適な基礎モデルの構築に成功した。そしてこのモデルに基づいた実験結果への詳細なフィッティング解析を通じ、相関強度を表すパラメタの値を実験的に決定する事に成功した。これにより、現在進行している圧力をパラメタとした実験において、結果の解釈を進める上での重要な指針を得ることができた。本研究計画に照らして、これらの成果は課題の解決と目標達成に向け、着実に研究が進行していることを意味し、今後も順調な課題進捗が可能と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
30年度はまず、進行中の圧力掃印実験を推し進め、圧力による相関制御の励起特性への影響を緩和率測定から詳細に調べ、理論モデルとの比較検討を行う。また、面直磁場下での実験と、対応する理論モデルの構築にも新たに着手し、前年度に確立した理論解析の知見を総動員して、相関の強まる量子極限状態における電子相関効果の全容解明を目指す。測定に用いる13C同位体試料が不足することも予想されるが、適宜12C体試料でも測定が可能な1H-NMR測定を併用し、ディラックコーン交点近傍での低エネルギー励起と磁性をより多角的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度の課題遂行を通じ、試料へ圧力を印加する際に用いる圧力セルの破損トラブルがあった。このため、予定していた他装置の購入を一部断念し、計画推進に不可欠な圧力セルの追加購入予算を30年度に残す事とした。残額はこのための予算であり、他の予定物品と合わせて追加でセルを購入することで、計画に支障がでないように研究を推し進める予定である。
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